さすがに、午前3時~4時ともなると、視聴者もぐんと少くなる。

「その時間はただボーッとしていて、視聴者さんが入ってくると、『あっ、〇〇さん、こんにちは』とうつろに声をかけていましたね。24時間配信ってすごく大変なのがわかるから、応援したいっていう視聴者さんも増えて、同情から高額ギフトアイテムを投げてくれる人もいるんですよ」

Aさんは、大学の授業を優先し、24時間配信はあきらめ、平日は大学から帰宅してから2~3時間、休日は1日6時間までの配信にとどめた。それでも配信が午前零時を過ぎることもあったという。

ライブ配信中、高額ギフトを投げてくれるリスナーもいた。

「『今、僕が16位にしましたよ』という視聴者もいました。リアルタイムで、ポイント獲得のランキングが入れ替わるので、高額ギフトを投げてもらうと目に見えて順位が上がったんです。一番多い女性で1日に何万円分もの課金アイテムを獲得していたと思います」

ポイントの渡し合いをする秘密協定

手っとり早く、フォロワーを増やし、課金アイテムを稼ぐためのノウハウもあった。
それは「枠周り」という。「枠」とは配信者がライブを行っている時間帯を指す。

「同じ配信アプリの中には、他のミスコン、ミスターコンの出場者もいます。コンテストの開催時期が違うので、自分より早く締め切りが来る人に私のポイントをあげて、その人の順位を上げてあげる。そしてその人のコンテストが終わったら、その人が貯めていたポイントを全部もらって、今度は自分の順位を上げる。コンテストの運営者がわからないところで、そういうポイントの回し合いの協定をいろんな人と結ぶんです。そういう協定を結んでくれる人を探して、こまめに他のライブ配信を回ることを『枠周り』といいます」

Aさんの場合、某大学のキャンパスミスコンに出場している女性と協定を結んだ。

「彼女のライブ配信の内容が良かったので、彼女のインスタをフォローしたら、DMで『よかったらお互いにポイントを譲り合いっこしませんか』とメッセージをもらいました。彼女と仲良くなって、彼女の枠にいたリスナーさんたちも一緒にワッと連れて来てくれました」

Aさんは大学の昼休みにスマホを使って、がんがん「枠周り」していったという。そこにもコツがあるという。

「ランキングトップの人にいくらたくさんポイントを投げても、元からいるファンの熱量が高いから『ありがとう』だけでスルーされる確率が高い。だけど、ランキング6位とか9位とか、あともうちょっとぐらいで上位が狙える人に投げると、『えっ、初めてきたのにこんなに投げてくれるんですか』と、反応が全然違うわけですよ。だから、ライキング中位くらいの人を狙って、枠周りしていました」

ミスコンはもうこりごり

Aさんはコンテストが終わり、結果的に最終審査のメンバーに残れなかった。

「この世界、最終審査に残れなかったら最初から出てないのと同じ」とAさんは苦笑いする。自分が稼いだポイントは全部、他のライブ配信者に譲ったという。

「私はもともと、周りのことを気にする性格だったんですけど、心が強くなりましたね。2カ月間、ほんとにミスコンのことばかりずっと考える毎日だったんですが、一生のうち2カ月を配信中心の生活に捧げられたというのはいい経験になりました。ライキング上位の人でも、途中で心が折れて『キツいので辞めます』と、途中でやめた人もいました」

ミスコンに再挑戦するつもりはあるかと訊ねると、Aさんは「ないない」と笑いながら手を振った。

「ミスコンって本当に大変ですから。顔とトーク力だけではなく、長時間配信する体力も必要。もう1回限りでいいかなという感じです」

SNS審査が主流になってきたからこそ生まれた歪みもあるようだ。

取材・文/三方九