日本上陸は2016年ごろ
スペインの北に、バスク自治州はある。バスクは強い自治権を持ち、民族的にも異彩を放ち、独自の言語(ヨーロッパにあるどの言語にも似ていない)を持つ。必然的に、文化的にも他の州とは一線を画す。
イベリア半島は歴史的に、ローマ帝国、西ゴート族、イスラム勢力によって蹂躙されてきたが、バスク人たちは独立を守り、それは近代まで長く続いた。20世紀の軍事独裁政権を経て独立の気風は変質してしまったが、バスクは孤高を守ってきた。
日本でバスクという名が広く知られるようになったのは、その歴史やサッカーやフランシスコ・ザビエルの出身地ということよりも、バスクチーズケーキの影響が大きいかもしれない。
バスクチーズケーキは2016年ごろに日本に上陸。外側を黒く焦がした濃厚な風味のあるチーズケーキはその後、日本で大ヒット。コンビニエンスストアではバスクチーズケーキ風のパンとして商品化されたあたりは、日本人ならでは創意工夫と言えるだろう。
ただ、実はバスクにバスクチーズケーキは存在しない。
バスク州のギプスコア県、サンセバスティアン市は「世界一の美食の町」として知られ、路地にはミシュラン級の店が軒を連ねる。バルのはしごは一つの文化だ。
そのサンセバスティアンに本拠を置くスペイン1部リーグの古豪、ラ・レアル・ソシエダ(ラ・レアル)のクラブハウスで、筆者は何度かランチをごちそうになったことがある。
現在は、日本代表である久保建英も所属。選手もそこでランチを取ることがあるだけに、今シーズンは久保も食べているのだろうか。
その日、ランチデザートに出たのがレアチーズケーキだった。ブルーベリーソースがチーズと溶け合い、なんとも贅沢な味。定食に付いたデザートとは思えないレベルで、日本人の舌にも合う気がした。
バスクの人々は、食に対するこだわりが強い。チーズを好んで食べるだけに、その活かし方を知り尽くしている。それが美食の町の歴史を生んだ。
筆者が思うに、どこにいってもスペインで出てくるケーキは全般的に甘すぎる。大味なものも多く、アベレージはかなり低い。そのため、同国では大概はデザートをパスし、カフェだけにすることを推奨しているのだが、バスクでは、スイーツも捨てたものではない。
ただ、チーズケーキはおいしかったが、「バスクチーズケーキ」というメニューは存在しなかった。