「戻れー! あいつらが狙ってくるぞ!」
もっとも、ここまで挙げたエピソードは、田中や川崎フロンターレに興味を持っている人たちの間では比較的知られている話かもしれない。しかし、それだけではなかった。田中伝説には“エピソード2”があったのだ。
田中が小学2年生のとき、さぎぬまSCよりも格上のチームとの試合が行われた。試合開始の笛が鳴ってから1分も経たない時点で、田中がベンチの監督に向かって叫んだ。
「こいつら強いよ! すごく上手い!!」
マンガ『ドラゴンボール』の主人公・孫悟空が強い敵にあったときに発しそうなセリフである。ただ、そんな試合でも田中は先制点を叩き込んだ。
そして、得点の直後にチームメイトを集めて、今度はこう伝えたという。まるでマンガ『SLAMDANK』で主人公の桜木花道がインターハイ出場をかけた試合終盤にチームメイトへ呼びかけたみたいに……。
「戻れー! あいつらが狙ってくるぞ!」
澤田もこのエピソードには舌を巻く。
「相手チームがものすごいパス回しをしてきたり、自分のチームの選手たちが次々とドリブルでかわされてしまったりするのを見て、相手チームの実力を子供たちが試合中に気づくことはあると思います。
でも、普通はせいぜい5分とか10分経ってから気づくものですよね。まだ、小学生なので。それなのに彼は1分も経たないうちに、相手チームのひとつかふたつのプレーを見ただけで、『自分たちとはレベルが違うな』と判断できたみたいなんですよね。
しかも、得点した後には、監督よりも先にチームメイトに守備をするように呼びかけて。すごいですよね。そういえば、この前、彼が出演したNHKの番組を見たときも『相変わらずこの子は話すの“も”上手いよな』と思いましたけど(笑)」
田中はまだ24歳だが、将来は監督になりたいとすでに公言している。「田中ならいい監督になりそうだ」という声はすでに挙がっているが、さぎぬまSCに残るエピソードはそうした意見の正当性を証明するものになるかもしれない。
取材・文/ミムラユウスケ 写真/Getty Images
恩師だけが知る“権田伝説”「チームが静まり返っても鼓舞できるのが“ゴンちゃん”だった」<4人のW杯戦士を輩出した「さぎぬまSC」代表の回想録> はこちら
恩師だけが知る“板倉伝説”「下級生ながら2得点。学年を越えての『縦割り試合』が伝統行事に」<4人のW杯戦士を輩出した「さぎぬまSC」代表の回想録> はこちら
恩師だけが知る“三笘伝説”。「8歳で『ゲーゲンプレス』を実行していた」<4人のW杯戦士を輩出した「さぎぬまSC」代表の回想録> はこちら