家族の形を考え直す

白岩 今、離婚という言葉が出たので、それに関係するんですけど。今の時代、夫婦はもちろん、家族そのものの形が、ずっと同じであり続けるっていうのは、なかなか難しいことだと思うんですよね。でも、その中でも子供は、生まれたら大人になるまで二十年くらい時間がある。その長いスパンの中で、家族の形というものも、子供を中心に据えつつ、もっと多様化していくべきだと思います。そうしないと、子供が健やかに育っていかないというか、自分の存在をうまく肯定できないのでは、という気持ちがあるんです。だから、家族の形がこれからどうバリエーションを見せていくのか、僕も興味があって。

ryu 子供を中心に考えるっていうのは、本当に大切なことですね。僕も「夫」という肩書は卒業させてもらったんですけど、僕が紛れもなく、息子の父親であること、てこ(peco)のパートナーであることは変わりない。僕たちの判断も、息子を軸にして考えたところがすごく大きくて。

白岩 これまで抱えてきたものを、ryuchellさんがpecoさんに告白されたときに、今まで本当にたくさんの本物の愛をくれたから、受け入れることができた、とpecoさんが書かれているのを拝見しました。夫や妻、父親や母親という肩書は置いておいて、家族に必要なのは、お互いへの思いやりと、それを形にした行為の蓄積だと、僕も自分の経験を振り返ってしみじみ思うんです。並ならぬ覚悟が必要だったと思いますが、ryuchellさんたちも、その行為の集積があったからこそ、「新しい家族の形」を作ることができたのではないかな、と勝手ながら思ったりして。

ryu ありがとうございます。てこと息子には本当に、感謝しかないです。同時に、「新しい家族の形」という言葉には、怖いところもあって。これって、本当に便利な言葉なんですよね。

白岩 確かに、「イクメン」と同じような両面性を持っている言葉かもしれませんね。

ryu そうなんです。なので、この言葉が広まるといいな、という気持ちは全くなくて。ただ人って、何かを捨てて、手が空いて初めて、他の何かを手にできる。だから、「この形、自分には合わないかも」と苦しんでいる人に、自分を苦しめているものを手放して、新しい何かを手に入れるきっかけになれば、と願っています。

「〈父親〉の未来を考える」『プリテンド・ファーザー』著者 白岩玄×ryuchell_4

父親たちが戸惑いを共有できる場

白岩 最近思うんですけど、父親の気持ち、特に育児や家事に直面したときの戸惑いを表現する人に、もっと出てきてほしくて。「父親たち、もっと話してくれ、自分の気持ちを教えてくれ」というのが、僕の今の社会に対する、いちばんの願いなんです。ryuchellさんは、そうした「父親の気持ち」をよく発信されていますよね。

ryu そうですね。戸惑いの部分は特に、強く発信するようにしています。例えば、ママは赤ちゃんがずっとお腹の中にいるけれど、パパはタイムラグがありますよね。ママのお腹にいるときは実感があまりないし、生まれた瞬間に父親の意識が目覚めてくれるわけでもなくて。徐々に、徐々に、じわーっと幸せを感じて、「ああ、パパになったんだ」という実感がわいてくる。

白岩 「父親になる」タイミング、本当にそうですよね。父親の自覚という点でも、僕は後れを取ってしまって。妻が復職する際に、息子を三ヶ月一人でみる経験をするまでは、やっぱりどこかで意識が低かったです。そうした「こういうとき、どうしたらいいんだろう」というような、リアルな男性の感情を、男性同士が共有できるようになるといいな、とつくづく思います。でも、その発言自体を、父親がしにくい、という部分もあるのかな。戸惑いや弱音を吐露するのに抵抗があったり、打ち明けたら母親たちに「まだそんなところにいるの?」と言われてしまいそうな気もして。そうした父親の戸惑いの言葉を、どうやって社会の言葉にしていくのか、というのは、これからの課題だと感じます。

ryu 僕もそう思います。その意味で、小説はもちろん、いろんな形の物語で「父親」というテーマが取り上げられるのは、きっかけ作りとして、とても大事な気がします。物語という形だから、みんなに届きやすい。『プリテンド・ファーザー』も、父親たちの迷いや葛藤が素直に、すっと自分の中に入ってきて、本当に素敵だな、と感じました。優しい言葉たちの中で、心に刺さるリアルな、現実の言葉がいっぱい綴られていて、いろんな角度で物事を考えさせられました。たくさんの気付きがある作品なので、ぜひ、いろんな方に読んでもらいたいです。

白岩 ありがとうございます。その言葉、大切にします。

「小説すばる」2022年12月号転載

関連書籍

「〈父親〉の未来を考える」『プリテンド・ファーザー』著者 白岩玄×ryuchell_5
プリテンド・ファーザー
著者:白岩 玄
集英社
定価:本体1,700円+税
「〈父親〉の未来を考える」『プリテンド・ファーザー』著者 白岩玄×ryuchell_6
たてがみを捨てたライオンたち
集英社
定価:本体1,600円+税

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