劣悪な環境から逃れるための犯罪
この事例からわかるように、犯罪に手を染める人、その中でも若者が置かれている環境は劣悪だ。
家庭虐待の他にも、学校でのいじめ、地域での差別、悪友からの誘い、悪いグループとのしがらみなどがんじがらめになっているケースが少なくない。生きるために売春をするしかないといったこともある。
また、先天的な障がいとの関わりも少なくない。知的障がいや発達障がいによって、より大きな生きづらさを抱えていたり、一般的な人以上に日常から苦しみを感じ取る機会が多いことがあるのだ。
そんな若者たちが、劣悪な環境から逃れるために、苦し紛れに手を染めるのが犯罪なのだ。
「刑務所へ行きたかった」「死刑になりたかった」といった彼らの言葉の裏には、そういう現実がある。
少年院は、こうした子供たちに社会復帰できる力を養わせるための場所だ。社会から切り離し、どう生きていけばいいのか、人間関係とは何かかといったことを1年前後かけて身につけさせる。
だが、いざ彼らを社会に返そうとしても、再び大きな困難が立ちはだかる。少年たちが社会に帰ることを怖がることがあるのだ。私が話を聞いた少年たちは次のように述べていた。
「社会に戻りたくありません。また親が追いかけてきて私からお金をむしり取るとか、利用するとかするだけだから。それならずっとここにいた方がいい」
「ここを出ても、どうせ仕事とかつづかなくて、夜の街にもどって売春するだけだと思う。(売春は)できるならしたくない。でも、それしかできないんだもん。だったら、こっち(女子少年院)の方がマシ」
残念ながら、少年院に1年いたところで、社会の荒波を自力で生き抜くだけの力が身につくのは稀である。大半は社会にもどった後、再び厳しい現実にぶつかることになる。
彼らはこうした現実をわかっているからこそ、こう言うのだ。
「社会に戻りたくない。このままでいい」