草薙航基と後藤拓実。第七世代の傷だらけの天使が羽を休める
日本テレビ制作の「ハネノバス」は草薙(宮下草薙)と後藤(四千頭身)の若手芸人二人が、気心の知れたスタッフとともに自由気ままに旅に出るという番組。コンセプト・画角・テロップ…どこをとっても、「水曜どうでしょう」以降の文脈に連なる脱力系の旅バラエティなのだけど、これがどうにも面白い。2回のパイロット版を経て、昨年10~12月に深夜帯にレギュラー放送した全10回を第1期として、ファンクラブを設立してトークライブ開催と、ジワジワと人気を集めている。数ある旅バラエティの中でも、この「ハネノバス」の特別性は出役である二人の稀有な存在感によるところが大きいだろう。彼らはごく普通のことをしているだけでも、妙に面白くてキュートに映るのだ。
草薙と後藤、いわゆる「第七世代」と呼ばれる若手芸人の中でも異質な存在感を放っている二人だ。なんと言っても揃って声が小さい。草薙が「アメトーーク!」出演時、「テレビ史上いちばん声が小さい」と宮迫博之にイジられたというエピソードに顕著であるが、テレビという場所、いや、“社会”というものは、大きな声でハキハキとしゃべる人間が「正しい」とされる。声の小さい者は社会が引く線の外側に置かれてしまうのだ。実際のところ、草薙は社会から疎外されてきた側の人間だ。高校をわずか2日で中退し、その後バイトを転々とするもどれも長続きせず、お笑い芸人という職業に行き着いたという。そんな草薙が己の声の小ささやネガティブ思考を逆手にとり、テレビという世界の一線でサヴァイブする姿には、いつも胸を震わせてしまう。
ネガティブ思考に苛まれ声が小さくなり、時には癇癪を起こしてしまう彼は、ある意味とてもイノセントな存在なのだと思う。後藤は近年の成功者としてタワーマンションや高級車を購入し、それを大っぴらにメディアで披露してみせる姿にもまた、どこか無邪気な幼児性を覚える。そのチャイルディッシュなルックスも相まって、草薙と後藤の二人が、現代社会に蝕まれる“天使”のような存在に見えてきてしまう。実際、番組タイトルには、天使の姿に模された草薙・後藤のイラストが添えられている。ドライブ・釣り・ドミノ・サーフィン・競馬…たわいもないことに興じて、その傷ついた羽を休める二人の姿を通じて、視聴者のわれわれもまた社会での闘いに疲れた心を癒やされているのかもしれない。
「ハネノバス」
出演:草薙航基(宮下草薙)、後藤拓実(四千頭身)
ファンクラブ「ハネクラブ」ほかにて第1期配信中。
©日本テレビ
若手お笑い芸人の二人が気心知れたスタッフとプライベートのように「ハネを伸ばす」旅番組。お笑いのステージも次のステップへ羽ばたけるよう成長中。
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