「これはセックス人形」
団体によるこうした嫌がらせが常態化されていた中、2003年に東京都日野市で七生養護学校の事件が起こった。
同校は、生徒同士の関係で妊娠が起こったという過去を踏まえ、知的障がいの子どもたちに対して独自の性教育プログラムを開発して実践をしており、関係者から高い評価を得ていた。
ところが、これを都議会で保守系議員が問題視し、「異常な授業だ」と東京都教育委員会にも圧力をかけていった。石原慎太郎都知事(当時)もまた非難に加わり、七尾養護学校に対するバッシングは加速していった。その結果、都教委によって、校長や教諭が降格や懲戒の処分の対象にされていった。
「あれも酷い捏造でした。ちょうど国会で山谷えり子議員が活発に動いていた時期で、彼女にも酷い中傷をされました。七生養護学校には、産経新聞の記者を連れた保守系の都議会議員と市議会議員が押し入ってきて、保護者の方と先生たちが、一生懸命作った教材を持っていってしまったのです。
産経の記者は教材で使っていた人形をわざわざ裸にして紙面に掲載し、『まるでアダルトショップの様』と見出しをつけました。山谷氏は『これはセックス人形です、この人形を使って子どもたちに性技術を教えている』と、とんでもないウソの発言を繰り返したんです。
あの人形は、知的障がいのある子どもたちに自分の身体やそのしくみを教えるために使われていました。身体の変化を教えたり、あるいは、おしっこをするときにズボンの前からすることができない子がいるので、その指導をするためのものだったんです。
しかし、山谷氏は『これでセックスを教えている』とデマを流して、世論を七生養護学校へ攻撃するように扇動しました。当時の校長先生は降格させられ、熱心にがんばっておられた先生たちも異動させられ、性教育ができなくなりました。さらに、この影響は全国にまで及びました」
都教委は熱心に指導をしていた116名の教員を処分した。その処分理由のすべてが授業とは関係の無い別件によるものであり、合理的なものではなかった。元校長や教師は都教委と都議会議員に対して「教育への不当介入が行われた」として訴訟を起こした。裁判は長きに渡り、10年後に校長側の勝訴が確定したが、性教育の現場が失ったものは、あまりに大きかった。