日本で経口妊娠中絶薬の導入が遅れている理由

先ほども触れた通り、日本では昨年12月にようやく中絶薬の承認申請が出されました。世界で最初にフランスで承認された1988年から33年後のことです。

日本はなぜこれほどまでに遅れたかというと、単純に申請がなかったからです。求める声がないところに製薬会社は進出しません。

では、なぜ求める声がなかったかというと、一つは前述の医師の技術の高さによるものです。技術が高く、日本は世界の中でも比較的に安全に中絶手術を行うことができました。それゆえに中絶薬を求める声が上がらなかったのだと思います。

なぜ今も子宮から“掻き出す”のか。世界85カ国が導入する「経口中絶薬」が日本で使われてこなかった理由_2
ミフェプリストンが承認されている国・地域(2021)

もう一つは、医師の業務が増えることの懸念によるものです。

掻爬法は、基本的には数分〜10分程度で完了する手術で、トラブルや副作用などがない限り、その日だけで全て終了します。しかし、数日かけて服用しなければならない、目視での中絶完了の確認が難しい中絶薬が承認されることで、1人の妊婦に対して数日間対応しなければならないことを懸念する医師も少なくありません。

実際に、私が中絶薬について情報提供した日本医師会での会議でも「現場の医者の仕事をさらに増やす気か」とおっしゃる方がいました。この点については、中絶薬の導入を支持する立場の私自身も、課題と感じる部分ではあります。どのような仕組みにしていくか、しっかりと考える必要がありますね。