FW起用は良い意味でのサプライズ

――今季ここまでの久保建英の活躍について、小澤さんの率直な感想を教えて頂けますか? 予想通りなのか、それとも驚きの方が大きいでしょうか?

久保建英の実力を考えれば驚きはないんですが、過去3シーズンのラ・リーガ(スペインリーグ)の中での活躍ぶりや立ち位置と比較すると、今シーズンはやはり驚きが大きいです。
特に、FWで起用されている点ですね。Jリーグ時代でもラ・リーガでの3シーズンでも観たことがない、久保の新たな一面を目の当たりにしているので、良い意味でサプライズです。

――久保建英に2トップの一角、セカンドトップ的な資質があったということ自体が驚き、という感じでしょうか?

久保が攻撃的な選手ということは分かっていました。けれども、ラ・リーガでの過去3シーズンでは右サイドのウイングで「相手を抜いて決定的な仕事をする」、特に「クロスからのアシストをする」というようなイメージ、ブランドが定着していたと思います。

しかし現在のレアル・ソシエダでは右サイドではなく、より中央でプレーしています。これまでもトップ下でプレーができることは分かっていましたが、レアル・ソシエダにはトップ下のポジションに、チームの中心選手であるダビド・シルバがいる。そのため久保はより高い位置のFWで起用されています。その起用法は想像していなかったので、日本代表の森保監督も含めて「こんな一面もあるんだな」と、良い意味で受け止められていると思います。

――レアル・ソシエダの、チームとしての特徴はどのようなものでしょうか?

ラ・リーガの中で、レアル・ソシエダはクラブ予算的に中規模のクラブです。戦力的にも上から数えて5、6位くらいで、ヨーロッパの大会でいうとチャンピオンズリーグではなく、ヨーロッパリーグを目指すようなクラブですね。
そういう中堅チームなのですが、例えば残留争いをするとかではなくて、常に上位争いはしています。でも優勝争いは流石に厳しいよね、というような立ち位置のクラブと言えます。

サッカーの戦術的にはスペインサッカーのイメージそのもので、ボールをしっかりと握り、パスを回す、攻撃的なパスサッカーというクラブ。
なぜそういう攻撃的なパスサッカーが構築できるのか、ということを紐解くと、育成年代の地元の子供たちの存在が要素として挙げられます。外から良い選手を次々に買えるクラブではないので、良いサッカーをするために、子供たちを育て上げているんですね。

どちらかというと、今のプロサッカー界はトップダウンでサッカーを落とし込む、つまりトップチームの戦術を育成年代にも教える、というのが主流です。レアル・ソシエダはそうではなくて、これはバスク特有の地域性でもあるんですが、地元の子供たちを大事にしながらボトムアップ方式でチームを強化していくことで、成功しているクラブです。

それが攻撃的なサッカーに繋がっているという意味でも、地元のファンのみならず、世界のサッカーファンに「レアル・ソシエダのサッカーっていいよね、見たいよね」というようなイメージが定着しています。経営的にも、ピッチ上のサッカー面的にも、ラ・リーガの模範的なクラブの一つだと思いますね。