歴代記録を塗り替えた駒大苫小牧の強力打線

2004年の夏の駒大苫小牧は、済美と同等の打力を持ち合わせているうえ、投手陣には岩田聖司と鈴木康仁の両左腕にくわえ、翌年エースを担う松橋拓也、登板機会がなかった吉岡俊輔を含め4人の投手がいた。

下記が駒大苫小牧の2004年夏の主要選手の成績である。

・駒大苫小牧(2004年夏)大会戦績
決勝  :駒大苫小牧 13-10 済美
準決勝 :駒大苫小牧 10-8 東海大甲府
準々決勝:駒大苫小牧 6-1 横浜
3回戦  :駒大苫小牧 7-6 日大三
2回戦  :駒大苫小牧 7-3 佐世保実



・駒大苫小牧(2004年、夏)打撃成績
8 桑原佳之 打率.231 0本塁打 1打点
9 沢井義志 打率.478 1本塁打 6打点
4 林裕也 打率.556 1本塁打 8打点
7 原田勝也 打率.231 0本塁打 2打点
2 糸屋義典 打率.700 1本塁打 7打点
6 佐々木孝介 打率.429 0本塁打 7打点
3 桑島優 打率.556 0本塁打 2打点
1 岩田聖   打率.125 0本塁打 0打点
5 五十嵐大   打率.421 0本塁打 4打点
控え 鈴木康仁  打率.455 0本塁打 2打点

チーム打率.448(歴代1位)



・投手成績
岩田聖 21回2/3 25奪三振 防御率4.98
鈴木康仁 20回2/3 23奪三振 防御率5.66
松橋拓也 2回2/3 4奪三振 防御率10.13

チーム防御率5.60

打撃陣は全員の打率が3割以上ではないが、4割以上の打率を記録した選手が7人いた。くわえて、全試合で2桁安打を記録しており、チーム打率(.448)は歴代最高記録である。

打線の中心にいた糸屋は、歴代最高となる大会通算打率7割はもちろんのこと、決勝戦であわよくばサイクルヒットを達成する勢いの活躍を見せた。この打力が目立っていた中で、失策もわずかに1。

岩田・鈴木の両左腕を中心とした投手陣は、成績だけで見ると防御率は5点台と高いが、どちらかが完投した試合は1試合もない。そのため、両投手が打たれても長いイニングを任せることができた。

戦績を見ると、3回戦で日大三に打ち勝ち、準々決勝の横浜戦では大会屈指の好投手と呼ばれた涌井秀章(現・東北楽天ゴールデンイーグルス)を攻略するなど、全国の名門を倒して勝ち上がった。このあたりから、メディアや甲子園の観客を味方につけていたのではないだろうか。

両チームともに2桁安打を記録した日大三戦での駒大苫小牧は攻撃に派手さはなかったものの、着実に得点を積み重ねた。一方の日大三は、守備のミスによって駒大苫小牧に点を与えてしまったうえに、打ち負ける結果となった。

準々決勝の横浜戦は、序盤から涌井を攻略。特に、当時2年生の林は先制ホームランを放ち、結果的にサイクルヒットも記録した。駒大苫小牧はこの試合でも18安打を記録しており、なかでもエースの涌井からは14安打を放った。先発の岩田も7回1失点の好投。優勝候補の横浜を下した。

準決勝の東海大甲府戦では、2年生の松橋が先発。東海大甲府もエースの佐野恵太ではなく、控えの岩倉亮が先発したため、序盤から乱打戦の展開だった。ただ駒大苫小牧はこの試合でも、いつもどおりの攻撃を見せる。ホームランはなかったものの、長短打と固い守備で試合を優位に進めて10得点を挙げ、勝利した。

駒大苫小牧は済美と比較して岩田・鈴木を中心とした複数枚の投手陣で勝ち上がってきたために、タフな乱打戦になればなるほど投手陣が粘りを発揮した。しかも、基本的なバントミスや守備のミスが少ないうえに、逆転できる打力もある。

まさに高校野球における「勝つための野球」が出来るチームであった。2004年の甲子園に出場した世代は、プロになれた選手が1人もいなかったものの、チームスポーツとして勝利に徹する完成された集団であったことは間違いないだろう。
済美の春夏連覇の夢を破った駒大苫小牧は、この翌年に林と五十嵐を中心とした固い守備陣と松橋・田中将大の2枚を揃えた投手陣を揃えて、夏の甲子園2連覇を達成することになる。

逆に2005年の済美は、再び福井1人を中心に任せた結果、2回戦で姿を消した。たらればにはなるが、もし済美にイニングが稼げる2番手投手がいれば、2004年に春夏連覇を達成していたかもしれない。

この3校の比較からわかるように21世紀の高校野球において連覇を果たすためには、強力な打線と1人のエースがいるだけでは不十分であり、複数の投手を運用しながら勝ち上がる「継投戦略」が重要になってきたのである。


文/ゴジキ 写真/shutterstock

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