投手の大黒柱がいない状況で、智弁和歌山は野手だった山野を投手としてマウンドに上げた。夏に向けて生まれたこの起用法は「2人の投手を上手く継投しながら圧倒的な打力で勝つ」という現代の高校野球に近い戦略だった。言うならば2000年の智弁和歌山は、これまでの高校野球のセオリーを覆したのである。
その戦略は名門校をも圧倒する。2回戦の中京大中京との乱打戦を制すと、3回戦のPL学園戦でも、19安打・4本塁打で打ち勝った。とくに、19安打のうち9安打が長打であり、強豪相手に打撃力の違いを見せた。
準々決勝の柳川戦は1対0でリードを守り切ったセンバツでの戦いとは打って変わり、序盤からリードを許す展開に。しかし8回裏に柳川のエース香月の親指のマメが潰れるというアクシデントの隙をつき、武内と山野のホームランで追いつくと、延長11回に後藤のサヨナラ打で勝利した。
準決勝の光星学院戦もリードを許す展開だったが、この試合も打線が2番手根市寛貴を攻略し終盤の逆転劇で勝利。
2度の逆転劇によって勝ち上がった決勝で戦ったのは、東海大浦安。そのエースの浜名翔は準決勝まで35回2/3を投げて防御率は2.02と驚異的なピッチングをみせており、どのチームも彼の決め球シュートを打ちあぐねていた。
智弁和歌山打線はその浜名から6回表までに5点を奪うも、東海大浦安打線も智弁和歌山の中家から5得点、そして6回裏に山野から勝ち越しの6点目を奪う。しかし、智弁和歌山は劣勢に立たされていながらも焦りはなかった。
8回表に疲れが見え始めた浜名に対して、5つの長短打で一挙5得点を奪い逆転優勝。準々決勝から決勝まですべて逆転勝利で夏の甲子園を制覇した。
智弁和歌山は、この大会で多くの記録を塗り替えた。6試合連続2桁安打は大会タイ記録。さらに、合計100安打・11本塁打・チーム打率.413(2001年に日大三が更新、2004年に駒大苫小牧がさらに更新)・157塁打は歴代最高記録だった。
ちなみに合計34失点も新記録である。失点をしても相手より打って得点するチームのスタイルは、この大会から20年以上経った後も語り継がれるように、智弁和歌山は「豪打」や「強力打線」のイメージを作り上げた。
そして20世紀のチームでありながら、継投によって甲子園を勝ち上がる21世紀型の高校野球のスタイルに最も近いチームでもあった。
大阪桐蔭、春夏Vの必要条件~甲子園「連覇」の戦略史~
今大会では大阪桐蔭が4年ぶりの春夏連覇を狙っているが、21世紀に入ってからこの偉業を成し遂げたのは、2010年の興南、そして2012年と2018年の大阪桐蔭の2校のみ。甲子園で春夏連覇をするためには何が必要なのだろうか? 感情論や印象論で語られがちな高校野球を、野球著述家のゴジキ氏がデータや戦略・戦術論、組織論で読み解く。
「データで読む高校野球 2022」 ①
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春夏連覇まであと一歩だった2004年済美