なぜレアルのオファーを断ってジェフに来たのか

大野 僕はオシムさんやアシマさんと話していて、いつも答えが出ていなかったんですけれど、木村さんは、なぜオシムさんはジェフに来たんだと思いますか。

アシマさんから聞いていたのは、あの時点で、いろんなオファーがあったと。レアル・マドリードやボルシア・ドルトムント、FCポルトからも何度もオファーがあった。それを全部断って、ジェフに行ったんですよね。

木村 バイエルンからもオファーがあったと聞いています。あれはジェフのGMだった祖母井秀隆さんだけが、直接会いに来てくれたからだと、『オシムの言葉』のインタビューの中で、そうおっしゃっていました。

大野 それが、理由ですか?

木村 そうオシムさんから聞きました。ミヤトビッチが当時レアルのスポーツディレクターをしていて、ものすごく呼びたがっていたんですよね。僕はレアルでミヤトビッチ本人にインタビューしたんですけれど、「グラーツにいた頃から、シュワーボに来てもらいたかった」と言っていました。

大野 そうなんです。グラーツにいる頃、必ずアシマさんが自宅の電話に出ていたみたいなんですが、「レアル・マドリードから電話よ」と言うと、オシムさんは、電話に出ないのだそうです。

アシマさんが、よくその話をしてくれました。何度も何度も電話が来ても、出ないって。そのうち「アシマさんが取り次がないのでは」と噂になって、アシマさんに贈り物がいっぱい届くようになったらしいんです(笑)。

「私が止めているみたいで、困ったわ」とアシマさんは言っていました。「でも、一回くらい話を聞いてもよかったんじゃないの」というような愚痴を、僕に言うんですよ。「レアル・マドリードに行っていたら、どんなことになっていたかしらね」とも。「でも、行ったのはジェフなのよ」って(笑)。

木村 やっぱり、監督の裁量権の問題かなと思います。僕には、「正直に言うと、私はビッグクラブ向きの監督ではない。なぜなら、大きなクラブを指揮するためには制約がものすごくたくさんある。短い時間で結果を求めてくるし、人気があるスター選手を外したら、監督のほうの首が飛ぶだろう」と言っていました。

例えばレアルだと、それぞれの選手にスポンサーが付いているじゃないですか。契約の中にも、最初から何試合出場させろというのが入っている。日本に来るスーパースターも同じですが、オシムさんは、それを嫌がっていたんじゃないでしょうか。

大野 オシムさんは、わかっていたんですね。ただ、ザルツブルクは、レッドブルの創業者でオーナーのマテシッツ氏が、直々に会いにいって、新しいチームなので、全権を与えるみたいな話をしたらしいですが、それでも行かなかったというんです。それはもしかしたら、同じオーストリアの中での、グラーツへの愛情があったのかもしれないですね。