世界から離されてきた4×400mリレー
「スタートが改善されましたね。リアクションタイムが予選で2番目、全体で7番目の速さでした」
第18回世界陸上競技選手権大会権オレゴン大会の3日目に行われた、男子100m決勝。歴史的な7番入賞を果たしたサニブラウン・ハキーム選手について、東京大学特任研究員・東大陸上運動部コーチの竹井尚也さんは、そう評した。
「リアクションタイム」とは、スタートの反応の速さを表すもので、スターティングブロックに埋め込まれた圧力センサーによって算出される。スプリント種目においてスタートの出来は勝敗に直結する。ではスタート技術の向上には、どのような練習法があるのだろうか。
「サニブラウン選手がどのような練習をしたかは分かりません。ただし、スタートの改善は『慣れ』によるものが大きいと言われています。スタート合図の後、選手の体内で運動指令が脊髄・抹消神経を通過するのですが、神経伝達の速度には限界があります。練習をいくら重ねても、一定の速度以上は速くならないので、それを維持することが重要になります」
短距離走には、100m、200m、400mの3種目があり、100mと400mにはリレーもある。近年の日本男子チームは、4×100mリレーでの躍進が目立つ一方で、4×400mリレーは予選敗退が続いている。4×400mリレーチームのサポートスタッフを務める竹井さんは、その要因をこう話す。
「4×400mリレーも、2004年のアテネ五輪までは好成績を残すこともありましたが、それ以降は3大会連続で予選敗退が続きました。この時の記録には、日本の学生記録を下回るものもありました。選手個々の記録を考えれば、こんな数字になるはずがない。そこで敗因は、レースの“流れ”に乗れていないことではないかと考えました。と言うのも、4×400mは他のレースとは大きく異なる要素があるからです。4×100mリレーや400mの単独レースでは、選手はあらかじめ決まったレーンを最後まで走りますが、4×400mでは途中からレーンの制限がなくなります。序盤で遅れると、走路を塞がれたり、バトンの受け渡しが外側のレーンになるなど不利になるのです」