不安、うつ、孤独……脳にとっての意味を理解する

たとえば、不安も、生き延びることを使命としている脳の働きからすると、起きて当然の感情なのだそうだ。

「不安は未来における危険に、脳と身体が反応して起きるものです。常に脳は感染しないか、殺されないか、事故に遭わないかと、昔からあった大惨事に備えているのです。それが生き延びることになるから。こうして理解すると、不安が起きるのはまったく不思議なことでなく、弱さの現れでもないとわかります」

おなじようにうつも、脳や身体の働き方から理解すると、生き延びるためのまっとうな反応であると捉えることができるそうだ。『ストレス脳』では、感染症から身をまもる広い意味での免疫反応の現れが、うつであるという最近の学説を紹介している。

では、孤独はどうか。

ハンセン氏は、「孤独を長期にわたり感じていると、ただつまらないだけでなく、健康に影響をあたえることがわかっています。心疾患やある種のがんは孤独のせいで増えるとする研究者や、1日15本たばこを吸うくらい健康に悪いとする研究者もいます」と話す。

なぜそこまで孤独は健康に悪いのか。これも脳と身体の働き方から理解できるという。

「サバンナ時代、人間には一人では生き延びることができなかったという現実があります。そこでのけ者にされることは死を意味していました。だから、脳は孤独をだれも助けてくれない状態と受けとるので、ストレスの活動がオンになるわけです」

ハンセン氏によると、毎週10分だれかと電話するだけでも孤独の感情が減ったという研究結果もあるという。また、『ストレス脳』では、対面で会って、お互いに触れ、肉体の存在を感じることの大切さを述べているが、こう補足もしている。

「自分たちにだれかとつながりがあると感じられるかが大事です。そのシグナルを受けることで、ストレスが下がり危険がさほどないと解釈することになります」