他人に干渉されない空間、自分の時間だけが存在する「都会のオアシス」

浴場の入り口に「黙浴」と貼紙されているものの、利用客のほとんどが単身である『安心お宿』は、館内で会話を聞くこと自体があまりない。

ネガティブな言い方をすれば、利用客は自分以外の利用客にまるで興味を持っていないのだ。自分と同じ館内着に身を包んだそれぞれの利用客が、いつから滞在しているのか、どんな仕事をしているのかもわからない。

たとえば、唯一利用客のパーソナリティが垣間見える4階ラウンジでは、食事のほか、アルコールが無料提供されていることに利点を見出す方もいるだろう。しかし、施設は複数人の宴会を固く禁じている。まだまだ余談を許さぬ新型コロナウィルスの飛沫感染や喧騒を心配する必要はない。

4階から客室フロアに持ち込めるコミックも、漫画喫茶と比較すればその種類こそ少ないが、『呪術廻戦』『進撃の巨人』『東京リベンジャーズ』など1度は目を通しておきたかった話題タイトルがひと通り揃えられている。筆者も良い機会とばかりに、それら作品に手を伸ばしてしまった。

また、各客室フロア施錠口の前の洗面スペースには、洗面台とトイレ、ウォーターサーバーが設置されており、就寝・起床時に発生する面倒が極力排除される設計になっている。

さて、至れり尽くせりの『安心お宿』に1週間滞在した結果……筆者は、広いカプセルベッドに寝転び、『ONE PIECE』など話題作品を全巻読み終えた満足感と共にチェックアウト期日を迎えることになった。

曜日感覚を失うまでダラけきっていたので、持ち込んだ仕事は何も進んでいない。言い訳をさせてもらうと、飲食やデスクワークができるフリースペースのみで、明確なコワーキングスペースがなかったのが、自分に甘い筆者にとってはよくなかった。別途、コワーキングスペースが設けられた「新宿南口駅前店」「秋葉原電気街店」なら話は違ったはずだ(きっと)。

1か月プランなら1日あたりの宿泊費がもっと安くなるのだから、店舗を変えて再チャレンジすることも検討している。

まとめると、常に清潔、かつ、他人の干渉を受けず自分の時間のみを過ごせる配慮・仕組みこそ『安心お宿』が提供する「安心」の本質のようにも思える。とにかく、生活するだけなら過不足ないのだ。利用客のニーズに応えつづける豪華カプセルホテルに「都会のオアシス」を見出すリピート客が多い理由もうなずくことができる。

とはいえ、館内の人間関係は至極ドライ。コミュニケーションを必要としないほどの配慮は「AIが支配した近未来の生活」のようでもある。強いて、難点をあげるとすれば……あまりの長期連泊に人恋しさを覚えること。くらいではないだろうか。
※ 料金は2022年7月現在の「安心お宿 プレミア荻窪店」の価格。キャンペーン等で変動あり
※ 女性客の宿泊は「名古屋栄店」のみ可能