黒塗りし忘れた文書も送られてきた
布施 望月さんは映画監督の森達也さんとの対談本『ジャーナリズムの役割は空気を壊すこと』(集英社新書)の中で、あまり情報公開請求をしたことがないと書かれていましたね。
公開請求しても出てくるのが黒塗りの文書ばかりで、さほど得るものがない、と(笑)。
望月:そうですね。それと、コツコツと情報公開請求をして、出て来たものをきちんとファイリングして……って、もう本当に私が一番苦手とするような作業が続くので、情報公開請求は、同僚でそういうことが得意な人に任せて(苦笑)。
でも、布施さんは自衛隊の日報などの文書の開示請求をとことん続けていって。そんな中で、まったく黒塗りされていない文書が間違って開示される、という出来事が起こったわけですね!
布施 はい。「イラク復興支援活動行動史」というイラク派遣の「まとめ」的な文書は、真っ黒に塗り潰される予定が、防衛省のミスで黒塗り前の文書が送られてきました。
あれで、それまで公表されていなかった多くの事実が明らかになり、イラク派遣を検証する上でとても役立ちました。
望月 それはたまたまなのかもしれないけど、普通の記者とか私だったら1回目で諦めているようなところを、しつこく日々コツコツとやり続けた結果として、まさにそういう偶然を引き寄せた、という気もします。そこがまたすごいな、と。
自衛隊員の家族向け説明会資料には「武力紛争」との文言が!
布施 ところで、望月さんと最初にお会いしたのは2016年の9月ごろ、築地本願寺で、ですね。あっ、全然覚えてないですか?(笑)
望月 全っ然覚えてないです。スミマセン(笑)。
布施 ちょうど政府が2015年に成立させた安保法制を初めて適用して、南スーダンPKO部隊に「駆け付け警護」という新任務を付与しようとしている時でした。市民グループの主催でそのことを考える勉強会があって、そこで僕が報告者の一人として発表しました。
政府は「南スーダンでは武力紛争は発生していない」と言い続けて、よりリスクの高い新任務まで付与しようとしていたわけですが、僕が情報公開請求で入手した派遣隊員向けに作成されたハンドブックでは、「2013年12月以降、南スーダンでは紛争が続いている」と説明していたんです。
僕がその話をしたら、望月さんが、すごく食いついてきて(笑)。集会が終わった後に僕のところに来て、ガンガン質問をされて。
いろんな記者の方とこれまでお会いしてきましたけど、望月さんのエネルギーがハンパないなっていう風に思って、今もすごく印象に残っています。
望月 そんなことがありましたか(苦笑)。
(構成:稲垣收/写真:野﨑慧嗣 )
<後編へ続く>
※本記事は2022年5月18日(水)に本屋B&Bにて行われた『自衛隊海外派遣 隠された「戦地」の現実』(集英社)刊行記念イベント、「『これからの自衛隊』とジャーナリズムの役割」の内容を一部再構成したものです。