オリンピックでの一勝
現在は来年カタールで行なわれるW杯の実質的な最終予選の真っ只中だが、そこに向けたチームの合宿が本格的に始まる前から、代表のコーチとのワークアウトに参加している選手がいた。NBAに挑戦中の河村勇輝や馬場らがそうだ。
パリ五輪の際には、選手ごとの待遇の違いが話題になったこともあった。伊藤はこの点についてこう説明する。
「私が意識しているのは、日頃からやりとりをしている人たちは、みなさん、プロであるっていうところです。選手もそうだし、スタッフも一人ひとり特別扱いしているようなイメージです。
選手によっても、32、33歳のベテラン選手と20歳の選手とではニーズが違います。家族がいるのかいないのかによっても変わります。JBAとして譲れないところは譲れないけれども、選手によって変わってくるニーズを知るために、どれだけコミュニケーションを取るのかっていうところ」
誰か一人を特別扱いするのではなく、全員の事情に耳を傾けたうえで、必要な配慮を個別に判断する。そのうえでチームとしての一体感を損なわないよう、対話を重ねている。
もっとも、こうしたコミュニケーションの変化について、伊藤は自分一人の手柄にはしない。
「私だけではなくて、島田(慎二)会長ももちろんそうですし、組織全体として、コミュニケーションが以前よりクリアになったのではないでしょうか。こちら側だけが『こうやりたい』っていうだけじゃなくて、ある程度選手の声も聞けるようになったりもしましたから」
もっとも、こうして整えてきた環境は「あくまで通過点に過ぎない」と伊藤は強調する。
「私たちがずっと大切にしているのは、何のために最強の布陣を整え、何のために最高の一体感を作るか。それはオリンピックで勝つことです。オリンピックに出ることではなく、そこで勝てるチームを目指しています」
2024年のパリオリンピックでは、自国開催で出場権を得た大会をのぞき、実に48年ぶりに世界最高の舞台に日本は参加した。わずか12ヶ国しか出場できない大会だ。フランス代表相手に歴史に残るような死闘を繰り広げたが、世界相手に勝利をつかむことはできなかった。だからまずは、オリンピックで勝つことが目標になる。
少なくとも、八村とJBAの関係は修復に向けて大きく動いた。
新体制による、コーチング体制の刷新、サポートスタッフへの投資、そして一人ひとりに向き合うコミュニケーションという、地道な積み重ねによって溝は埋められてきた。
ただ、八村が「戻りたくなった」と語るまでになった日本代表は、伊藤が思い描く目標から逆算したときには、まだ途中経過に過ぎない。
目標はもっと先にあるのだから。
取材・文/ミムラユウスケ













