AKATSUKI JAPANの3本柱
実は、「NBAレベルの選手が来ても苦労しない環境をつくる」という発想は、伊藤が日本代表の強化に携わる前から持っていたものだ。長崎ヴェルカがまだB3(プロレベルで最も下に位置する3部リーグ)に所属していた頃から、伊藤はこう考えていたという。
「当時のヴェルカでは馬場雄大、渡邊雄太や八村塁が来たときに何も苦労しない、『NBAと変わらない環境だ』と思ってもらえるような組織作りをすることを大切にしてきました。当然、日本代表でも、NBA組が戻ってきたときにバスケットに集中できる環境を作らなければいけないというところから始まりました」
クラブ経営者として目指した理想の環境は、代表チームをマネージメントする際にも何ら変わらない。
伊藤がまず着手したのは、コーチングスタッフの再編だった。2026年2月、ホーバス氏と契約を解除し、Bリーグの琉球ゴールデンキングスを率いてきた桶谷大にHCを任せることにした。桶谷はリーグ優勝も天皇杯優勝を経験し、今年まで5年連続で琉球をBリーグファイナルへ導いてきた指揮官だ。
そこにアシスタントコーチとして、NBA経験を持つ2人を招へいした。オフェンスを担うライアン・リッチマン(現アルバルク東京HC)と、ディフェンスを担う吉本泰輔である。
ライアンはNBAワシントン・ウィザーズでのコーチ経験を持ち、「Bリーグでもトップレベルの、相手チームからしたらスカウティングが難しいオフェンスを作っているコーチ」と評される指導者だ。
吉本は、NBAの名将トム・シボドー氏のもとでスタッフ、ACを務めた。新シーズンにはスターひしめくフィラデルフィア・セブンティシクサーズでAC兼ヘッドビデオコーディネーターを務めることが決まっている。
伊藤はこの体制を「3本柱」と呼ぶ。
「日本のコーチといったら桶谷さんって出てくるぐらいの人だと思いますし、ライアンはNBAでもコーチをやっていましたし、Bリーグの中でトップスリーに入るオフェンスのチームを作ってきたコーチ。泰輔さんもNBAでも長くやってきたコーチ。
この3人がそれぞれの強いところを発揮してくれるんです。すると、彼らに学びたいと日本人のコーチたちが続々出てくるんです」
こうして日本中の指導者たちが代表活動に参加したくなるような環境が整った。だから、JBAの呼びかけに応じて代表の活動に来る、他のコーチの数が増えた。その結果、今度は選手サポート体制が厚くなった。
これまでオーストラリアのリーグでもプレーした経験があり、NBAにも挑戦してきた馬場雄大は、今の代表のコーチングスタッフの充実ぶりをこう語る。
「利点しかないです。コーチが多い分、選手1人に対して1人のコーチがつくくらいの強度で選手がワークアウトできていることが大きいなと思っていて。各コーチがHCとコミュニケーションをとって、『この選手にはこれが必要だ』という技術を落とし込んでくれているので」
実際、8月19日の全体練習後に行われたワークアウトでは、ビッグマンの4選手に対して吉本AC、網野友雄コーチ、町田洋介コーチの3人が指導にあたっていた。
各チームでHCやそれに準ずる立場にいる指導者たちが個別のワークアウトを担当し、トレーナー陣も増員した。特にBリーグのシーズンオフにあたる時期は選手にとっては能力を伸ばすための重要な期間だ。
苦手な分野の克服に取り組みたいと考える者もいれば、長所を伸ばしたいという者もいる。必要とする個人練習の内容は選手ごとに異なる。それに応えられるコーチがいるかどうかが、選手の成長速度を左右する。













