「宇波次官」案ではなく、別の道を探る官邸

今夏の中央官庁人事で最大の注目は、高市官邸が「師」も手につけなかった“人事介入”を行うかどうかだった。

「師」とする故・安倍晋三氏も官庁人事には手をつけなかったが…
「師」とする故・安倍晋三氏も官庁人事には手をつけなかったが…

官邸サイドは、選挙公約にある飲食料品の消費税ゼロ化を実現するため、与野党による「社会保障国民会議」で議論をスタートさせたが、財務省幹部が消費税減税に慎重・反対の立ち回りをしていると問題視し、人事権行使による打開を探っていた。

2度の消費税増税と関連する税・社会保障一体改革に道筋をつけ、2018年に安倍政権の首相秘書官となった新川浩嗣財務次官は2024年7月の次官就任から2年を数え、退任は既定路線だ。

ポイントは「次のトップ」を誰にするか。財務省では旧大蔵省時代から主計局長経験者が次官に上り詰めるのが基本だ。実際、最終的に新次官に就いた宇波弘貴氏も直前まで主計局長を務めている。首相官邸に持ち込まれた財務省案にも「宇波次官」とされていた。

だが、高市首相サイドは「宇波次官」案ではなく、別の道を探る。その人物とは官房長を務めていた坂本基氏(8月7日付で主計局長に)だった。

坂本氏は東大法学部卒業後、1991年に旧大蔵省に入り、主計局次長や大臣官房総括審議官などを経験した予算・税制に通じるエース格だ。入省同期には、高市首相の側近である尾崎正直官房副長官らがいる。

首相官邸サイドは宇波氏ではなく、坂本氏こそが「次官」にふさわしいと財務省を揺さぶったのだ。

財務省トップに政治サイドが口をはさむことは容易ではない

当初、官邸側は「政権が代わったのならば、米国のように主要幹部が交代しても何ら不思議ではない」と強気の姿勢を見せ、課長級以上の幹部人事は官邸主導で断行することを検討した。

だが、霞が関の中央官庁人事では入省後まもなく誰が次官となり、誰を主要な局長にするかまで秘書課長らが練り上げる。事務次官というトップ官僚、さらに「キング・オブ・官庁」の財務省トップに政治サイドが口をはさむことは容易ではない。

安倍首相が“介入”しなかったのは、こうした組織上の流れを無視できなかったからだ。

そこで高市首相サイドは「宇波次官」案を許容する代わりに、他の幹部人事で高市カラーを見せることにした。その象徴が一松旬主計局次長の「更迭」だ。

開成高校・東大法学部卒の一松氏は局次長として社会保障を担当し、社会保障国民会議でも財政規律や安定財源を確保していく観点から消費減税に反対だったとされる。