「終始、取り乱すことなく、綺麗に逝きましたよ」
午後2時過ぎに、S氏、N氏に拘置所の前まで付き添って頂き、一人で入管する。
「彼の最期はどうだったんですか」と聞くと、
「最後に煙草が吸いたい、と言ったので煙草を吸わせました。煙草を吸い終わった後にジュースが飲みたい、と言ったので、ジュースも飲ませました。終始、取り乱すことなく、綺麗に逝きましたよ」との旨、聞かされる。
部屋に入ってきた職員が花岡氏に耳打ちした後、「じゃあ今から遺体に会って下さい。もう柩は車の中に運んでいますから」と言われ、車の場所まで案内される。
裏門の傍であろう場所に駐車された車の中に安置された柩が目に飛び込んできた瞬間、ワァワァ大声を上げて泣いた。すぐに車に乗り込み、柩の顔の部分の扉を開け、そこに張られていたビニールシートを力任せに叩き続けた。4、5回叩いたところでシートが破れ、泣きながら、冷たくなった顔や髪を何度も撫で、大声で泣いた。
裏門の鉄扉の向こう側(外側)に居るのであろうマスコミの存在に気を張り詰めた職員たちが取り囲む中、車から降りると、一人の若い刑務官が私の傍に駆け寄ってきた。
その刑務官は、「最後に、奥さんに宛てて、“ありがとうって、僕(守)が言ってたって伝えてください”って言ってました」と口早に小さい声で私に伝えにきた。
その刑務官は、私よりもおそらく年齢が若いだろうと思えた。ピリピリと神経を尖らせた年長の刑務官たちが囲む中で、守が最期に残してくれた言葉を伝える為だけに、わざわざ私の傍に駆け寄ってきてくれたその若い刑務官に対して、私は感謝の気持ちでいっぱいになった。
「立ち止まらないで、早く中に戻って下さい」と別の職員に急かされる。
最初に通された3階の応接室に連れ戻され、そこで埋葬許可証のような書類を手渡された。
そこには、「死刑:その他/死亡時刻:8時16分」と書かれていた。
文/篠田博之 編集/月刊「創」編集部













