投資目的で居住する外国人オーナー

しかし、知識を持たない一般の住民が修繕計画の具体的な計画や妥当性を理解することは難しい。Aさんが心配するのが、リセールバリューの低下だ。「維持費が高くなれば、中古市場で高く売れなくなる可能性があるのではないか」と気をもむ。

実際のところ、管理費をきちんと徴収し、修繕積立金を積み立てている物件のほうが中古市場での評価は高くなるというのが実態だが、これはあくまで将来の話。

特に、築年数が浅いうちは建物の劣化に気が付きにくいこともあり、目先の支出を優先する住民は一定数いる。Aさんの言葉も、素人の戯言と一笑に付すことはできない。

維持費の増加を嫌う住民が増えることは既に問題になりつつある。その代表例が、投資目的で居住する外国人オーナーだ。

湾岸エリアのとあるタワマンでは数年前、管理費の増加を止めるため、中国系の住民が大挙して反対票を投じた「事件」があったという。

結局、賛成多数で可決されたものの、この事件は多くの住民が暮らすマンションが呉越同舟状態になっていることを白日の下にさらしたという意味で大きなインパクトを残した。

もともと、中国では日本のマンションにおける修繕積立金にあたる概念がなく、購入時に一括して払ったものを取り崩して使う方式となっている。

住民の善意によって成り立っている部分が多いが、「ハック」されれば…

そんな環境で育ってきた彼らにとって、月々のローンとは別に払う必要がある管理費や修繕積立金というのは「安ければ安いほうが良い」と考えるのは自然な流れだ。

そもそも、永住目的で日本に住んでいる訳ではなく、どこかで売却する可能性のほうが高い。20年、30年後の資産価値を考えるよりも、月々の支出を抑えるほうが合理的ですらあるといえよう。

「管理費を中国人オーナーが支払わない」「修繕積立金が3倍に爆増で生活激変」…マンション襲う「管理の崩壊」という時限爆弾_2

中国経済の失速や習近平政権の強権的な姿勢を受けて、中国から富裕層が資金を逃がす目的で東京の不動産を買い漁っていることは周知の事実だ。

彼らの多くは、東京の不動産価格の上昇を投資機会として捉えており、数年間保有して値上がりを待ち、売却して利益を得ることを目的としている。

マンション価格の上昇とともに中国人オーナーが増えるにつれ、こうした発想で管理費や修繕積立金の増額を抑えようとする流れは強くなる可能性が高い。

現状、マンションの管理は住民の善意によって成り立っている部分が多いが、「ハック」されれば、将来に禍根を残しかねない。