「適度な距離感」が縁をつなぐ
俺もなんだかんだ言って運はいい方だと思う。
自分で探したわけでもないのにいいミュージシャンにめぐり会えて、その人たちが一緒に仕事をしてくれてるのは運がいい以外の何物でもない。
ただ俺は運を呼び込もうと意識してやってることは特になくて、無理矢理思いつくことがあるとしたら、必要以上に相手の懐に入らないことくらい。でもこれでいい「縁」をもらっているような気はしている。
ミュージシャンの井上陽水さんに会ったときも、多分俺は誰もが知っている大物ミュージシャンに対する態度じゃなかったことで、距離が縮まった気がする。
普通は「昔からファンです」と言うだとか、曲のことをあれこれ聞くとか、妙に持ち上げたりとかするんじゃないかと思うけど、俺は一切しなかった。
というのも実は俺は、陽水さんのことをそんなに知らなかったのだ。会ったときも言われたことに相槌を打つ程度で、俺のそのそっけない態度が陽水さんにとってはむしろよかったのかもしれない。陽水さんは相手に必要以上に持ち上げられたり、いろいろ質問されたりするのがウザいのだろう。
俺は意識してそうしたわけではなかったけれど、相手の陣地に土足で上がったりはしない方だし、自分の陣地にもずかずか入ってほしくない。
もしかしたらこの距離感が、いい縁と運を呼び込んでくれているのかもしれない。
相手によって態度を変えない
タモリさんがときどき俺を呼んでくれるのも、たぶんラクだからだと思う。
タモリさんともプライベートでたまに飲ませてもらうのだけど、タモリさんの話を聞くときも俺はやっぱり「へー」しか言わない。聞いているんだかいないんだかわからない感じだけど、それでもタモリさんとは音楽の話で盛り上がる。
結局、所さんとも陽水さんともタモリさんとも音楽でつながってるからよくしてくれるところは絶対あるけど、距離感を一定に保っているからいまの関係が保てている。
運って「相手に合わせて態度を変える人」よりも、「誰といても変わらない人」のところに来る気がする。
こんなにすごい人たちと付き合えるということは、俺は相当運がいいんだろうから、俺はこの距離感を今後も多分変えないと思う。
文/奥田民生