「その土地で教育目的を達成するためにどんな工夫ができるか」 

——今後は各自治体の教育委員会などが主導して、地域ごとに工夫をしていくという方向になっていくのでしょうか。

そう思います。プールの稼働状況も地域によってかなり違います。今は夏の気温が高いですが、気温が高すぎるときに水泳授業を実施してしまうと熱中症のリスクがありますし、水の中でも熱中症は起こり得ます。

寒すぎても暑すぎてもだめで、ちょうどいい気温のときしか水泳授業が実施できない。すると、年間の指導計画がたとえば8時間あったとしても、天候の都合で3時間しかプールに入れなかったりするわけです。

そういう事情は地域によって異なります。個別の状況がある中で、児童生徒が年間一人当たり3時間ずつしか入れないプールを維持するのか、それとも自治体に屋内プールを建てて児童生徒が年間を通して利用できるようにするのか。「その土地で教育目的を達成するためにどんな工夫ができるか」ということが重要です。

写真はイメージです(PhotoACより)
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それは水泳に限った話ではありませんが、水泳にお金をかけすぎると他の教科活動が貧困になってしまうこともあり得るので、全体を見なければいけません。

水泳の実技授業はあまりにもいろいろな面でコストがかかりすぎるのがネックだから、実技の廃止という判断が増えているのだろうと思います。

——水泳の実技授業を民間に委託する動きも見られます。水泳授業に関して官民を超えた対話が必要だとお考えでしょうか?

基本的には行政のやるべきことだと思います。教育学的な考え方ですが、教員免許を持たない人に授業を依頼するということ自体、そもそもできません。

中学校の場合だと特に、泳ぎの得意な数学の教員がいたとしても、体育の免許を持っていないので水泳の授業ができないわけです。ただ「泳ぎを教えるのが上手」というだけで教員の専門性を取って代われるのかというと、難しいです。

学校の教員は児童生徒の泳ぎの技能だけではなく、参加の態度や他の子との協調性など、さまざまな観点で成績評価しているわけです。

写真はイメージです(PhotoACより)
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民間委託によって教員の負担は減るし、児童生徒のリスクは少し解消されるとは思います。でも民間に全部頼らなければいけないような水泳授業をそもそも維持する必要があるのかというと、それも少し疑問です。

水の事故の怖さを間接的な形で学べるようにしたり、泳ぐことの楽しさをせめて小学校の間には経験できるようにするなど、さまざまな工夫は必要ですが、今まで通りの規模で、すべての学校で同様のやり方で維持するのは無理だと、多くの関係者は思っているのではないでしょうか。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班