スタッフが珍しくスタッフにお願いしたこと

池田さんは中山さんも同じ体験をしていることに驚き、そこでベニスのホテルで中山さんが頼んできたことの意味を知ったという。

「実はそのベニスのホテルの2泊目で、美穂ちゃんが“スタイリストさんと同じ部屋で眠らせてほしい”とスタッフに頼んでいたんです。
私が美穂ちゃんとこれまで撮影でご一緒にさせていただいてきた中で、唯一の彼女からのお願いだったと記憶しています。それくらい、こうしてほしい、ああしてほしいと言うオーダーのない希少なスターでもありました」

この思い出は池田さんにとっても“プロとして我々の仕事に応えてくれていた中山さんに対し親近感を覚えたエピソード”だったようだ。

「自分にとっても不思議な体験を、まさか彼女までしていたのかという、不思議な親近感というか、なんというか。
あと彼女とのロケで思い出すのはサンタフェのペンションに泊まった時、夕食でカレーライスを作ってくれたことですね。スタッフのみんなを気遣ってくれる優しい方でした」

中山さんといえば女性の映画ファンからも評価の高い作品にも多く出演してきた。その一つが元夫である辻仁成さんの原作を映画化した『サヨナライツカ』ではないだろうか。

映画公開時に『LEE』の2010年1月号で受けたスペシャルインタビューでは「死」についてこんなことも語っていた。

「わかったことは、人にはいつもサヨナラが用意されているということ。いつ死ぬかわからないですもの。だから、生きていることを噛みしめながら生きていきたいって思います。杏子は、人を愛することでそれを痛感したんだと思うんです。だから、あるがままにひたすら愛した。演じながら、改めて杏子に共感しました」

人にはいつもサヨナラが用意されている。確かにそうだが、54歳のサヨナラはあまりに早すぎる。

取材・文/河合桃子
集英社オンライン編集部ニュース班