「希望の煙突の巻」(ジャンプ・コミックス141巻収録)

今回は、千住の火力発電所の食堂で働きながら歌手への道を模索する、「紅月灯(あかつき・りん)と両さんとのふれあいを描いている。

少年期の両さんは、同年代の美少女といい雰囲気になることが多いが、年上のお姉さんに憧れることも多い。暴れ放題の悪ガキなくせに、意外と早熟でませた一面もあったようだ。

舞台になっている千住火力発電所は、1926年から1963年にかけて東京都足立区にあった東京電力の発電施設。そびえ立つ4本の煙突が下町のランドマークとして知られており、眺める角度によって煙突の本数が違って見えることから、「おばけ煙突」と称されていた。

なお作者の秋本治先生にとって紅月灯はお気に入りのキャラクターだったようで、本作以降、彼女が登場するお話を2編描いている。

まずは、『こち亀』の名を冠さない続編、「希望の煙突 ─端島─」だ。灯の故郷である長崎県の炭鉱施設、軍艦島の思い出をまじえて2012年に描かれた。

そしてもう1作は、少年時代の両さんと灯が同級生という『こち亀』のパラレルストーリーが展開された「希望の煙突『夏』─1963─ 勘吉たちの夏休み」が2023年に発表。

いずれも高度成長期の日本の時代感が色濃く表れた傑作で、1日も早いコミックス収録が待たれる。

そして、おばけ煙突を舞台にした『こち亀』の傑作といえば、両さんの美しい臨時教師への慕情を描いた「おばけ煙突が消えた日の巻」(ジャンプ・コミックス59巻収録)を挙げないわけにはいかない。こちらはコミックスに収録されているので、ぜひ読んでみてほしい。

「おばけ煙突が消えた日の巻」より。清楚で美しい佐伯羊子(さえき・ようこ)先生。彼女も『こち亀』マドンナのひとりだ
「おばけ煙突が消えた日の巻」より。清楚で美しい佐伯羊子(さえき・ようこ)先生。彼女も『こち亀』マドンナのひとりだ

それでは次のページから、変わりゆく高度成長期の東京の下町を舞台にした、両さんとマドンナとの交流をお楽しみください!!