「これこそ日本の美だ」

なぜ、カールソン氏は日本を礼賛するのか。それは、アメリカの保守派と日本の伝統文化は、コア・バリューを共有していると考えているからだ。

「美とは真実です」と述べて、日本の神社の「美」と、保守派の人たちが固く信じる「真実」(カールソン氏はtruthという言葉を使っていた)は同質のものだと説く。

タッカー・カールソン氏(2022年12月17日 アリゾナ州フェニックス) 写真/NHK素材
タッカー・カールソン氏(2022年12月17日 アリゾナ州フェニックス) 写真/NHK素材

保守派の人たちは、リベラル寄りのメディアが、自分たちに都合の良い報道ばかりすることで、「真実」を捻じ曲げていると考えている。

選挙ではリベラル派が不正を行って「真実」の結果をゆがめ、選挙という民主主義の根幹を揺るがしていると認識している。

トランプ前大統領が立ち上げたソーシャルメディアの名称は、その名も「Truth Social」、つまり「真実」のソーシャルメディアだ。彼らが信じるところの「真実」は普遍的だ。だから自分たちは正しいという理屈だ。

さらに、これは、洋の東西を問わないと彼らは説く。自分たちは人種差別主義者ではないという主張にもつながっていく。

話が少々横道にそれるが、アメリカでの「日本礼賛」の傾向は、政治思想に関係なく広がっていると感じる。筆者は、2009年からの3年間ニューヨークに駐在し、しばらく日本で勤務した後、2019年からは4年間ロサンゼルスに駐在したが、2回の駐在期間を比べると、1回目より日本贔屓の人が増えていると感じる。

日本に対する関心や理解が全米レベルで広がっていることを実感する。1回目の駐在時は、ニューヨークでも店を選ばないと、美味しいラーメンにありつくことができなかったが、2回目は、どこでも、例えば南部のテキサス州でラーメン屋に入っても、本格的な味を楽しむことができた。

全米レベルでラーメンという食文化が浸透し、アメリカ人にとって身近になっていることを実感した。厨房に日本人あるいはアジア系と思われるスタッフがゼロでも、しっかりしたラーメンが出てくる。

また、最近では、大リーグでの大谷翔平選手の活躍もプラスに効いている。アメリカでは、一番人気のスポーツが野球だと思ったことはないが、それでも大リーグは大リーグだ。アメリカのスポーツメディアは、大谷選手の一挙手一投足を取り上げ、それこそ軽くお辞儀しただけでも、「これこそ日本の美だ」という調子で報道する。