通常の企業と違い、国家の破綻の前兆が見えにくい理由

第4に、会社の内輪(内部事情)を優先して、客のニーズを無視し、客に不良品を押しつけ始めると、これは潰れる前兆である。マイナンバーカードは欠陥カードであって民間企業ならとうに潰れていたのに、売れない商品やサービスを客=利用者に押しつけて平然としている。

マイナンバーカード 写真/shutterstock
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あるいは、世論的にとても支持されているとは言えない、本来医療に使うべき健康保険の保険料負担に子育て支援金を上乗せするのもおかしい。後述するように、裏金問題も国民世論を無視して、内輪だけを考えて甘い「処分」で終わらせようとするのも基本的に世襲の特性から来ている。

第5に、会社(国家)を自分のものだと勘違いして私物化する。ついには裏金作りを始めると、もはや末期症状である。異常に借金を膨らませて宴会をして平気になってしまう。サラ金経営に陥って潰れそうになると、経営者も幹部も通常の健全経営ではありえないような裏金作りを始める。国会議員のレベルではパーティ券裏金作り、政府のレベルでは使い道がチェックされないような予備費を膨らませ、官僚は基金を膨らませるのである。

社員も労働組合も将来不安を抱えているが、目先の給料を上げてもらうことしか言わない。経営がしだいに長い付き合いの銀行への借金頼みになっていく。国の場合、通常の企業と違って中央銀行がお札を刷れるので、「失われた30年」と言われるように、ある程度長持ちしてきたが、破綻するときは極めて悲惨である。三代目世襲政治家は家業が潰れるまでしがみつくために、自民党だけでなく国も潰れていくことになるだろう。

文/    金子勝

『裏金国家 日本を覆う「2015年体制」の呪縛』(朝日新聞出版)
金子勝
『裏金国家 日本を覆う「2015年体制」の呪縛』(朝日新聞出版)
2024年9月13日
957円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4022952783

総裁の「顔」を変えたところで、自民党の根っこは何も変わらない――。
腐敗・衰退著しい日本の根本要因を徹底検証した、渾身の作。

長年にわたって「裏金」をばらまき、都合の悪い言論を封殺し、
縁故主義による仲間内資本主義がはびこる日本社会。
民主主義を破壊し、国際競争力を低下させた背景にある「2015年体制」の正体とは。
さらに、情報通信やエネルギー転換など、先端産業分野から取り残され、国民生活をどんどん貧しくしていく日本経済の構造的問題、そして迫りくる“カタストロフ”とは。
世襲支配、円安バブル、脱税と隠蔽、軍事費の増額……負のらせん状階段を下り続ける、この国の悪弊を断つ。

■目次
第1章 「2015年体制」というディストピア
第1節 日本政治の腐った根っこ
第2節 「2015年体制」とは何か
第3節 世襲という病

第2章 自浄能力なき隠蔽国家――腐敗が止まらない仕組み
第1節 検 察の権力チェック機能も自民党の自浄能力も期待できない
第2節 国会審議で明らかになったことは何か
第3節 自民党内のアリバイ的処分と法改正
第4節 政治資金規正法改正の自民党案の欺瞞性

第3章 裏金国家――国が腐るとはどういうことか
第1節 「惨事」便乗型資本主義
第2節 「国家的」な裏金作り
第3節 円安インフレと防衛費膨張の悪循環
第4節 投機マネーに狙われる国
第5節 ずるずるとした滅び

第4章 裏金国家の経済政策――仲間内資本主義日本
第1節 プーチン型権力を目指す
第2節 リフレ派とMMTが日本経済を滅ぼす
第3節 政府の産業政策が衰退を加速させる

第5章 ディストピアから脱する道――裏金を提供する者のためでなく困っている者のための政治へ
第1節 政権交代が必須
第2節 円安インフレと格差拡大を防ぐ
第3節 防衛費膨張を止めてイノベーティブ福祉国家へ
第4節 地方衰退を食い止める
第5節 いかにして少子化を食い止めるか

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