高齢者の負担を現役世代と同じにしても健康に影響はない
全国の75歳以上の高齢者の医療費は、後期高齢者医療制度という予算の枠組みから支払われている。
総医療費のなかで後期高齢者医療費が占める割合は約4割。およそ20兆円の内訳をみると窓口負担1.6兆円、保険料1.7兆円であり、ここまでが後期高齢者自身が支払っている医療費だ。
残り16.7兆円のうち約7兆円の“支援金”はなぜか現役世代の社会保険料の中から拠出されている。残りの約10兆円は消費税や市民税や所得税、あるいは赤字国債を原資とした公費支出。つまりその大部分を私たち現役世代と、子どもや孫世代が負担しているということになる。(2、3)
それらが本当に社会に必要なものであればやむをえないが、実際には高齢者たちの生活や健康に貢献していないムダや非効率がたくさんある。
その最も代表的なものは「残薬問題」で、受け取ったものの使われない内服薬や湿布薬に多額の医療費が費やされている。2015年の厚労省の研究では患者全体で8744億円とされ(4)、現在ではおよそ1兆円が費やされていると試算する研究者も。
これらのムダを生む背景には、後期高齢者4人中3人の医療窓口負担が1割、言い換えれば9割引の“年中大安売り”によって過剰に医療需要が掘り起こされていることもある。使うつもりがない薬でも、安いから言われるままに受け取る。念のためで多めにもらい、使わず捨てたり仲間に配ったり…。
実際に国内の統計調査では、医療費が7割引から9割引になると約10%医療需要が増加し、それまでは医者に見せなかった症状で受診するようになるとわかっている。
このとき増加するのは主に自活できている比較的健康な高齢者の外来受診。「3割負担になると同居する現役世代の負担が大きくなる」と懸念されることもあるが、長期的には不要不急の受診が減るという形で落ち着くだろう。
一方で窓口負担の変化によって重症者部分といえる入院治療の需要は変化しない。これはおそらく高額療養費制度のためで、医療費負担が過大とならないよう所得に応じた1カ月ごとの支払額に上限が設定されているからである。
また「窓口負担が小さいほうが病気の早期発見につながり、重症化を防ぐことで総医療費の削減につながっている」という仮説は根拠に乏しく、窓口負担が増えても血圧や血糖値あるいは死亡率に目立った変化はなかった。(5、6)
このような研究によって、高齢者の自己負担割合が高くなっても、健康に対する大きな悪影響はないということがわかってきているといえる。
以上からある程度窓口負担率を上げたほうが、本来必要ないはずの過剰医療を防ぎ、医療人材の不足や長すぎる病院待ち時間などを解消し、年齢を問わず本当に医療を必要としている人がよりスムーズに適切な医療にたどり着くことができるようになる。このとき自明のことではあるが、現役世代の窓口負担は変わらず、高齢者の医療アクセスが制限されるわけでもない。
では最後に後期高齢者医療費を7割引とした場合、どれだけ私たちの手取りが増加するかを見ていく。