なぜ人懐っこいすずちゃんが豹変した?
2020年8月に初めてすずちゃんが現れたのは珠洲市三崎町寺家近くの海岸で、そのすぐそばには須須神社があった。その須須神社には古来から9月の秋祭りや祝いごとの際に神社前の海岸にイルカが姿を現す「いるかの三崎詣り」という伝説があった。すずちゃんはまさに伝説どおりに珠洲市に現れたというわけだ。
出村さんが当時を振り返る。
「ある日、窓から海岸を眺めていて見つけたのがすずちゃんでした。伝説は知っていましたが、まさかイルカが本当に現れるとはと思って、カメラですずちゃんの記録を始めました。
すずちゃんは人懐こいイルカで、触ったり、抱きついたり、またがる人もいましたが、かみつくことも怒ることもありませんでした。
それどころか、すずちゃん自身も人間が好きなのか、子どもを見つけると自ら近寄ってクルクル回って遊びたがり、石川県内の遊覧船と並行して泳いだりもして、すぐに地元の人気者になりました。縁起がいいとされる神の使いの出現で、実際に遊覧船の売上も上がりました」
能登半島地震の発生後、およそ25分で珠洲市三崎町寺家は津波に襲われたが、死者は出なかった。そもそも、すずちゃんがいる間は大きな地震もなかったと口にする人もいるという。これも神の使いのおかげだったのか。
現在、福井県内の海水浴場で多くの人をケガさせてしまっているイルカがすずちゃんだとすれば、いったい何があったのか。この変化について、出村さんはこう見ている。
「2020年に石川県内の海に出現した当初、調査にきた大学教授などが、すずちゃんは2歳のバンドウイルカではないかと言っていました。とすると、今は6歳になり、成長とともに性格が変わってしまった可能性もある。
ですが、私はすずちゃんはかまってほしくてただじゃれて遊んでいるだけではないのかなと思っています。そうはいってもイルカは300キロ近くの筋肉の塊みたいなものですから、人間はケガしてしまう。
それに環境の変化もあるかもしれません。珠洲市の海岸は海水浴場ではなく、泳ぐ人の数も近所の人たちが集まってきてもせいぜい数十人。ですが、福井県の海水浴場となると規模が違うでしょう。それで興奮してしまっているのかもしれません」
出村さんは、かつてすずちゃんが落ち着いて暮らすことのできた珠洲市に戻ってきてほしいと今でも願っているという。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班