BTSとSNS
では何がきっかけで、テニス人気に火がついたのか?
理由はいくつかあるが、一つは、著名人にテニス好きがいたことが大きいようだ。特に世界的人気アイドルグループBTSのメンバーで、パリ・オリンピックの聖火ランナーもつとめたJINのテニス好きは有名。
彼が、ルイヴィトンのスポーツウェアを着てテニスする姿をSNSにあげたことなども、若い女性の間で話題になった。
この例にも見られるように、若者間での人気上昇にファッションが果たした役割は大きい。本社が韓国にあるFILAは、次々に女性向けのテニスラインをリリース。ヨネックスの韓国代理店は、本社とは異なるデザイナーと契約し、韓国限定のウェアやアイテムを販売している。
加えてコロナ禍が追い風になる。テニスは壁打ちなら一人でできるし、ソーシャルディスタンスを維持して試合もできるからだ。
さらには、テニスに先んじて人気を博したゴルフのプレイ料金が、物価高によりあまりに高騰したために(韓国では週末のラウンドは4~5万円かかるそう)、若い人たちがテニスに流れてきたともいわれている。テニスなら遠出の必要もないし、ゴルフに比べれば用具代も安く済む。
それら一連の人気拡散の一翼を担うのが、韓国のSNSカルチャー。昨年まで韓国のトッププロであるパク・ソヒョンのツアーコーチを勤めていた西岡靖雄氏は、「韓国の選手は見られることへの意識が高い」と証言する。
「SNSにあげる写真も、表情やポージング、構図にも拘っています。コートに行っても、練習前にまずは写真撮影タイム。僕が撮っても何度もダメ出しされました」と、西岡氏は苦笑した。
2010年代後半からドラマや音楽、ファッション、コスメなど韓国発信のブームは日本に到来してきた。特に若い女性たちがそれらに惹きつけられてきたことはもはや語るまでもないだろう。
「テニスといえば、かわいい、おしゃれ、そして楽しい!」というイメージが日本に輸入される日もそう遠くないかもしれない。そしてその先にきっと、老若男女問わず楽しめる、テニス本来の姿の実現がある。
取材・文/内田暁