原作の“あの”シーン

――劇中、ふたりが実際に出会うのは物語開始から約2年がたった卒業式の日。藤野は卒業証書を渡すため、しぶしぶ京本の家を訪れます。

京本と出会った後、藤野が田舎道を走って帰るシーンは、好きな場面のひとつです。原作でも好きな箇所なんですけど、キャラクターが動くことでまた一段と大きな感動を受けました。

――京本の前ではそっけない態度の藤野ですが、ひとりになった途端、全身で喜びを表現する印象的な場面です。

藤野が喜びを爆発させながら、田舎道をスキップともジャンプとも、ガッツポーズともつかない動きをしながら走っていく。

私自身原作で最も好きな場面なので、演じる上であの感動を下回りたくないと思いながら、「何か限定しない声を出そう」ということを考えて演技していました。

――確かに、声にならない息遣いが伝わってきました。

アニメの収録を体験する前は、身体的な演技を伴わず、声だけでキャラクターに“なる”必要があると思い込んでいました。

ですが、アフレコの時に絵を見て、「すでに存在している藤野という人物に命を吹き込んでいく」感覚になりました。お芝居でいうところの「体の演技」はすでに終わっているんだなと。そう思えるくらい、躍動感のある素晴らしいアニメーションでした。

© 藤本タツキ/集英社 © 2024「ルックバック」製作委員会
© 藤本タツキ/集英社 © 2024「ルックバック」製作委員会

――今回監督を務めた押山さんからアドバイスや要望はありましたか?

監督とのやりとりで一番印象的なのは、劇中藤野が男性にキックをする場面です。台本には「うらア!!」とだけ書いてあり、何回かトライしたんですがうまくいかない。

「もっと」「もっとですね」「その50倍ぐらい」というやりとりを音響監督さんと繰り返していたら、「ちょっと今から行きます」と押山監督が自らブースに来られて。

何をされるのかと思いきや、「僕が今から実演します」と言って、「うらア~~~ッ!」と、150%の力で藤野の叫びを実演してくださったんです(笑)。その姿を見せていただいたことで、監督としてすごく信頼できました。