『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』
  
 
  ピクサーのオスカー映画「インサイド・ヘッド」が公開までに8回も作り直されたという逸話を知っていますか 
  トイ・ストーリー、モンスターズ・インク、ファインディング・ニモ、Mr.インクレディブル、カーズ、インサイド・ヘッド――。これら大ヒットタイトルを制作しているのはアメリカのピクサー・アニメーション・スタジオだ。これだけのヒット作を連発する秘密は徹底した作り込みにある。予算内、期限内で「頭の中のモヤ」を成果に結びつける戦略と戦術を解き明かしたベストセラー『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』より一部抜粋、再構成してお届けする。
 
  
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  『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』#3
 
「バージョン9」で公開 ドクターがアカデミー賞を受賞した「インサイド・ヘッド」の劇場公開版では、物語の舞台は少女の頭の中で、少女の感情をつかさどる、「ヨロコビ」「カナシミ」「イカリ」などの5人のキャラクターが登場する。
 
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だが初期のバージョンには、それよりずっと多くのキャラクターがいた。それぞれが、ドクターが心理学者や脳科学者に相談して選んだ感情をつかさどり、他人の不幸を喜ぶ「シャーデンフロイデ」や、物憂げな「アンニュイ」というキャラクターまでいた。またキャラクターには人間の名前がついていて、どの感情を代表しているかは、行動から察するようになっていた。 
 
これは失敗だった。「あまりにもややこしすぎた」とドクターは苦笑する。そこでキャラクターの数を絞り、名前もわかりやすくした。大手術だったが、うまくいった。 
 
のちの細かい点を詰めるラウンドで、こんなことがあった。このときの脚本では、「ヨロコビ」が、意思決定を行う司令室から遠く離れた心の奥で迷子になり、「司令室に戻らなきゃ!」と何度も言うことになっていた。これは、行動の目的と重要性を観客に伝える大事なセリフなのだが、そのせいで、ヨロコビが自己中心的でいけすかない人物のように思える、という指摘があった。
ドクターはどうしたか? このセリフを別のキャラクターに与えたのだ。「そこで『カナシミ』に、『ヨロコビ、あそこに行かなきゃダメよ!』と言わせたんだ」。些細な変更だが、「キャラクターの印象ががらりと変わったよ」とドクターは言う。 
 
この徹底した、疲弊するプロセスを8回ほどくり返すうちに、監督のコンセプトが細部に至るまで厳密に検証される。ゲーリーが物理的模型とCATIAで建物のシミュレーションをするように、映画のシミュレーションも徹底的に行われる。それがすんで初めて、ピクサーの最先端コンピュータを使った本物のアニメーション制作が開始されるのだ。
シーンを1コマずつつくる。有名俳優に声を吹き込んでもらう。プロの作曲家による楽曲を録音する。音響効果を作成する。これらすべての要素を統合して、世界中の劇場で公開されテレビで放映される実際の映画がとうとう完成する。 
 
「公開版はバージョン9くらいかな」とドクターは言う。 
 
文/ベント・フリウビヤ 写真/shuttertock
BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?
ベント・フリウビヤ、ダン・ガードナー 、櫻井祐子 (翻訳)
 
 
2024/4/24
1,980円(税込)
400ページ
ISBN: 978-4763140371
 
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ティム・ハーフォード(経済学者)…… 
ピーター・コイ(NYタイムズ記者) 
「本書を読まない人は、危険を覚悟せよ」 
 
【目次】 
■1章 ゆっくり考え、すばやく動く 
人は危険なほど「楽観的」になる 
もっと「前」に時間をかける 
■2章 本当にそれでいい? 
人は慎重に考えるより早く1つに決めたい 
常に「ベストケース」を想定している 
■3章 「根本」を明確にする 
「なぜそれをするのか」をまず固める 
目的を見失うと「顧客」が消える 
■4章 ピクサー・プランニング 
ピクサーは「灰色のモヤモヤ」から始める 
木も森も見る 
■5章 「経験」のパワー 
最初から「貯金」がある状態で始める 
先行者利益は「ほぼ幻」である 
■6章 唯一無二のつもり? 
「1年あれば終わる」が7年かかったわけ 
先人から「あてになる予測」をもらう 
■7章 再現的クリエイティブ 
計画段階でこそ「創造的」になれる 
「見直す」ほうが早く終わる 
■8章 一丸チームですばやくつくる 
必要なものを「ただち」に支給する 
利害が一致すればおのずと「協力的」になる 
■9章 スモールシング戦略 
「ブロックのように組み立てられないか」 
と考える 
巨大だと「完成」するまでお金を生まない 
■終章 「見事で凄いもの」を創る勝ち筋