不似合いな場所で足掻いている、そんな違和感があった

3か月の拘置所生活の中で生み出された曲『太陽の破片』は、6月21日にシングル盤が発売された。東京拘置所で書かれたノートの最初にあった原詩をもとに、追い詰められた重圧と苦悩についての歌だ。

そんな尾崎豊が最初で最後のテレビ出演を行なったのは1988年6月22日のこと。

東京ドーム公演を間近に控えていたので、そのプロモーションを兼ねての出演だったに違いない。

フジテレビの音楽番組『夜のヒットスタジオDELUXE』は、エンターテインメントに徹している人気番組だった。復帰をアピールするには効果があるが、アーティストの尾崎豊にとって相応わしい場とは言い難い。

たった一度のテレビ出演で披露した『太陽の破片』(マザー&チルドレン、1988年6月21日発売)は、勾留中に書いた歌詞をもとに作成されたものだ。シングル曲の中で唯一オリジナルアルバムに収録されなかった楽曲でもある
たった一度のテレビ出演で披露した『太陽の破片』(マザー&チルドレン、1988年6月21日発売)は、勾留中に書いた歌詞をもとに作成されたものだ。シングル曲の中で唯一オリジナルアルバムに収録されなかった楽曲でもある
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テレビ初出演の若きカリスマを迎えて、気持ちの高ぶりを隠せない司会者たちの紹介にも、どこか居心地の悪そうな尾崎豊は小声でこう語るだけだった。

「僕の素直な気持ちを曲にして、これからずっと歌っていきたいと思ってます」

自分自身の葛藤と向き合いながら孤独を歌っていた尾崎豊が、その夜は公衆の前に晒されているようにも見えた。不似合いな場所で足掻いている、そんな違和感が最初から最後まで漂っているように感じられた。

音楽の純潔性がそのまま出ているかのような、尾崎豊の精魂を込めた歌とパフォーマンスは、テレビ番組のエンターテイメント性とは対極にあった。テレビを見ている視聴者には、よくも悪くもそれがはっきりと伝わる夜となった。

しかし、アウェイともいえる場所でも、尾崎豊の歌声と咆哮には、時を超えて訴えかけてくるものがあった。今にして思えば、それは孤独な心が砕け散る予感を孕んだ、魂の叫びだったのかもしれない。


文/佐藤剛 編集/TAP the POP