急速に進んだ「日本で一部解禁」の背景

海外でのライドシェア拡大を受けて、日本でも2010年代からライドシェア関連ベンチャーが数社立ち上がった。このうち、株式会社Azit(アジット)の「CREW」は国土交通省からの通達を受けて、米国のライドシェア創世記のように慈善事業としてスタート。しかしながら、コロナ禍の影響も重なり、収益性が上がらず2020年に事業を休止した。

なお、Uberと中国・DiDi(ディディ)については、日本でタクシー・ハイヤーの配車アプリとして一部地域で普及してきたが、ライドシェアとしてはUberが試みた一時期の実証試験を除いて行なってこなかった。

急速な展開を見せる「日本版ライドシェア」の全面解禁に、タクシー業界からは猛反発。普及への最大の課題は「地域住民への説明不足」にあり?_2

そんな日本のライドシェアの潮目が、2023年になって変わる。

複数の有力政治家が、日本におけるライドシェア解禁の必要性を公の場で発言するようになり、また神奈川県の黒岩祐治県知事は出演した民放テレビ番組で「神奈川版ライドシェア」構想を発表した。

日本でのライドシェアに大きな転機が訪れたのは、2023年10月。

岸田文雄首相が臨時国会の所信表明演説で「ライドシェアの課題に取り組む」と明言。これを受けて、国の規制改革推進会議でライドシェア解禁に関する具体的な議論が11月からスタートした。河野太郎デジタル大臣は早期に取りまとめを行なうとし、12月末には「中間取りまとめ」を発表するに至った。

ただし、議論は全般的に「ライドシェア導入ありき」というスタンスが目立ったため、タクシー業界のみならず、各方面から「議論のプロセスに違和感がある」という声が上がっている。

その「中間取りまとめ」の内容は、大きく分けて3つある。

1つ目は、「タクシー事業の変革」だ。これは、タクシーの需要と供給をデータ化し、事業の最適化を進めるというもの。これと併せて、第二種運転免許試験の規制緩和や、同免許を所持するパートタイムドライバー採用の拡大、そして北海道ニセコ町を先行事例とした期間限定で他の地域からドライバーとタクシーを補完する仕組みを社会実装していく流れが生まれている。

北海道ニセコ町では、オーバーツーリズムによる課題解消に向けて「ニセコモデル」を開始した(写真はGO株式会社のプレスリリースより)
北海道ニセコ町では、オーバーツーリズムによる課題解消に向けて「ニセコモデル」を開始した(写真はGO株式会社のプレスリリースより)

2つ目は、道路運送法第78条第3号の制度の修正について。これは「自家用有償旅客運送」と呼ばれる、いわば「従来の日本版ライドシェア」を指す。

実は同78条第3号では「福祉目的」、同78条第2号では公共交通が不便な「交通空白地」で、地域住民らによる自家用車での旅客行為を認めている。これが、冒頭に示した「一部の例外」にあたる。

この「福祉目的」を拡大解釈し、タクシー事業者が運用・管理する形で新たな仕組みを創設。2024年4月から、タクシーが不足する場所や時期、時間帯において新たにライドシェアを実施することを目指すとした。一般的には、これを「一部解禁」と称している。

そして3つ目が、いわゆる「ライドシェア新法」に関する2024年6月に向けての議論だ。タクシー事業者以外の者もライドシェアに参入できるとしており、これは事実上の「全面解禁」を意味している。

この点においてはタクシー業界から大きな反発が起きている。また、一部解禁・全面解禁によらず、第一種運転免許しか持たないドライバーの運転に対する安全性や、乗車中の犯罪のリスクなどについての懸念が根強く残っているのが実情だ。

急速な展開を見せる「日本版ライドシェア」の全面解禁に、タクシー業界からは猛反発。普及への最大の課題は「地域住民への説明不足」にあり?_4