トルシエ監督「覇気のないヤツはベンチに入るな」
森岡 ベルキー戦が終わったときに状況に応じてラインを高くすることだけでなく、堅く守ろうという話はしたよね?
中田 しましたね。ベルギー戦をやってみて思ったのは相手も日本のことを研究しているということ。2失点目は2列目の選手が飛び出してきたので、そこを含めて僕らは話し合いをしました。
森岡 それで勝ち点1以上の手応えを感じた。
中田 そうですね。
森岡 前年(2001年)はセットプレーでも蹴る瞬間にラインを上げてオフサイドを取ることをやっていたんだけど、それはW杯ではできないなと思いました。
戦略に欠かせなかったのは松田の存在である。
宮本 自分たちがボールを持ったときの攻撃の持ち出しとか、彼(松田)の存在は大きかったんですよ。もともとFWの選手だからボールを持ったときは生き生きして。守備のときはイライラした顔しながら、「早く終わらへんかな」という感じでやっている(笑)。
中田 ボールを持てる選手なので、マツくんがプレーしているときは安心できました。全ての能力が高いので嫌そうな顔しても簡単にボールを取るし、僕は年下だったんですが、兄貴分的な存在として引っ張ってもらいました。
かくして、地上波視聴率60%超となった6月9日のロシア戦を迎えた。その裏では、大きなドラマがあった。
宮本 森岡さんの状態がはっきりしなかったんですよね。そんな中でアップしているとスタメン落ちの発表があって、「森岡さんが外れて大丈夫かな」という空気感がスタジアムに流れた。ここで勝ち点3を取ってみんなを安心させたいと思ったのは強く残っています。
森岡 自分が逆の立場だったら、なかなかいい準備をすることは難しい。今、ツネの話を聞いて「本当に迷惑かけたな」と思いました。
さらに森岡は、20年を経てある事実を明かした。
森岡 あの試合、僕はスタジアムの観客席から見ていたんです。知らなかったでしょ?
中田 知らなかったです!
森岡 本当はベンチから応援したかったんですが、トルシエから「覇気のないヤツはベンチに入るな」という感じで言われて。でも、そこで見たツネのプレーは正直、自分が憧れるくらい。自分が置いていかれた感じでした。数的不利になりかかったシーンでも、うまくパスを出させて最後は美しいステップでスライディングするシーンがあった。覚えてる?
宮本 覚えてないです(笑)。でもあの試合を通じてパフォーマンスが高くなったのは覚えています。
そして51分、日本中が沸いたMF稲本のゴール。起点となったのは中田の左クロスだった。
中田 ロシアのDFは大きいので単純に放り込んではダメだと思っていたんですが、柳さん(柳沢敦)が見えたのでグラウンダーでパスを出して、柳さんが落としてくれてイナ(稲本)が決めてくれました。
フラット3の裏オプションだった攻撃参加からの決勝点。ただ、中田はこうも言っている。
中田 ツネさんとか(森岡)隆三さんは大変だったと思います。僕とかマツ君が攻撃好きで勝手にふらふら行っちゃうんで。攻撃に行こうとして隆三さんやツネさんに止められることもありましたね。
この超攻撃的DF2人のエピソードに森岡、宮本も2人も苦笑い。写真の松田も茶目っ気たっぷりに笑っているように見えた。
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文/寺下友徳