12年前の「尖閣衝突事件」を彷彿とさせる情報リーク
情報を活かすために、作中の山下は時にマスコミへのリークも辞さない。海上保安官の情報リークといえば12年前、尖閣諸島付近で中国漁船が巡視艇の警告を無視して意図的に衝突してくる映像を、YouTubeで公開した一色正春氏を思い出す人も多いことだろう。長年、海保の情報戦を追いつづけてきた川嶋氏は、あの事件をどう見ているのか。
「それこそ好気性の、広めたほうがよい情報だったと思いますよ。領海を侵す中国船に対していかに危険な任務が行われているか、国民が知っておくのは重要なことです。ふつうの感覚であの映像を観れば、『なぜ、もう少し船を頑丈にできないのか』といった問題意識が芽生えるでしょうし、そこから予算化につながれば海保にとってもうれしい話です。
当時も今も、海保はマンパワー、予算ともに厳しいやりくりを強いられています。ただ、現実にはあのようなリーク、情報漏洩という形でしか世に出ませんでした。当時は民主党政権だったというのもありますが、政権が自民党に戻った現在でも、中国船との激しいつばぜり合いを記録した映像が公開されるケースはありません。たとえ撮影されていても、です。
そこには中国を刺激しすぎないように、といった思惑が働いているのでしょう。いずれにせよそれは海上保安庁の意思ではなく、報告を受けて判断する官邸や外務省の意向です」
どこまで見せてどこから伏せるか。誰もが情報の発信者になりうる現代、情報をあつかう繊細な手つきは知っておいて損はないだろう。