北朝鮮のミサイル開発を日本人が支援?

領海侵犯が中国のお家芸なら、北朝鮮に関する懸念事はやはりミサイルだ。『FOX』は北朝鮮のミサイル技術の飛躍的向上と、その脅威に対するわが国の政界の動向が物語の縦糸となっている。

作中では日本の大学教授が北朝鮮に技術指導をするエピソードが描かれているが、本当にこんなことが行われているのだろうか。

「北朝鮮のミサイル開発史上、いちばん大きな飛躍は液体燃料から固体燃料ロケットに転じたことです。液体燃料は注入作業が必要なので、その動きをアメリカが衛星にキャッチし、早い段階で対処することができたんです。それが固体燃料になると、準備なしですぐ発射できてしまうので、早期警戒ができなくなってしまった。

じゃあなぜ、これだけの技術革新が短期間で可能だったのか。他国の技術をひっぱってきた可能性は非常に高いといえるでしょう。その候補のひとつとして日本の研究者があがっているのは事実で、現にHさんも実際に何人か調査したと聞いています。

また、知り合いの、非常に多くの業績をあげた名誉教授からは、研究費がもらえない理系研究者が数多くいる現状を教わりました。三十代半ばから後半の、転職もむずかしいその人たちが『報酬ははずむから開発を手伝ってくれ』と他国に誘われたら……。小説に書いたような出来事がもしも起きているとすれば、それは我が国の研究費の運用に問題があるのではないでしょうか」

このように、シャレにならないトピックをふんだんに盛り込んだ本作だが、読み味はいたって軽快。アクションあり、ハイスペックなスパイ用アイテムあり、謎解きあり、やけ酒あり、定番のハニートラップあり、と見所満載でぐいぐい読ませる。

「せっかくフィクションでやらせていただくのだから、楽しんでもらえるものになるよう努めました。小説を書くのは初めてでしたが、担当の編集者さん、協力者として併記したストーリーなどのアドバイスをいただいた竹岡繁さんが相談にのってくれたおかげもあって、私自身、楽しんで書けました。ぜひ映像化して欲しいですね。場面があっちこっちといそがしく変わるので製作費が高くつきそうですが(笑)」

夏は近い。日本の海を安全に楽しむためにも、ぜひ読んでおきたい小説だ。


撮影/苅部太郎 写真/shutterstock


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