裸の男たちの最後の勇姿
1000年以上の歴史があるとされる「黒石寺蘇民祭」は全国から毎年約3000人近くも訪れる由緒ある祭りだ。
2021年からはコロナ禍で開催を中止しており、去年3年ぶりに復活したが、祭りの目玉となる「蘇民袋争奪戦」は自粛されていた。今年は、その争奪戦も実施されての完全復活となる年だったが、準備を担う檀家(だんか)の高齢化と将来の担い手不足を理由に今回が最後の開催となった。
祭り開催前には、同祭保存協力会青年部の菊池敏明部長(49歳)は「最後になったことは非常に残念だが、記憶に残る蘇民祭にしたい」と話していた。
午後6時からの開催だったが、最後の祭りを体験しようと午後3時前後からたくさんの人が訪れていた。
日が暮れ始めた午後5時30分頃、ふんどし姿に着替えた男たちがお寺の本堂前に集まりはじめ、「五穀豊穣」や「蘇民将来」などと書かれた灯籠に火をつけ始める。
そして、午後6時に邪気を正すという意味の「ジャッソウ、ジョヤサ」の掛け声とともに境内を流れる瑠璃壺川(山内川)に本堂から向かい、川の水でカラダを清める。その後、薬師堂、妙味堂を巡り、また川へ。「夏参り」または「祈願祭」と呼ばれるお参りを3度繰り返す。
ふんどし1丁に足元は足袋のみ、あるいは足袋とわらじのみ。防寒対策している取材班でさえ、寒さで震えるほどの気温の中、男たちは果敢に水をかぶり身を清めた。
今年で参加4回目だという男性は、「今年は参加者が多く、境内を巡る列が長く止まる時間があり、いつも以上に寒さが身に染みます…」と身を震わせながら話してくれた。
3度目を巡り終わると、時間は午後7時30分すぎ。開始から水を浴び、歩き続けた参加者たちは世話人の案内で藁で作られた待機部屋の中へ。炭火で暖をとったり、温かい飲み物で体力を回復させ、次の行事に備える。
裸の男たちが次なる行事に向けて英気を養っている間には、「別当登」(べっとうのぼり)と呼ばれる、別当(住職)ならびに蘇民袋を捧げもった総代が檀家などに守られ、ホラ貝、太鼓などを従えて薬師堂にのぼり、護摩をたいて厄払いと五穀豊穣を祈祷する、信仰としての大事な儀式を行った。