「俺達の間には“死の取り決め”があった」
ナンシー殺害についてはいくつかの説がある。
当時ナンシーにドラッグを売っていた男が、前日には酒代をせびるほど金に困っていた様子だったにもかかわらず、ナンシーが殺害された翌日には新品のブーツとレザーパンツ姿でバーに現れたというのだ。
その他にも、二人が自殺を図り、昏睡したシドを死んだと思ったナンシーが自殺したという説もあるが、これだと指紋が拭き取られて置いてあったナイフと、消えた2万ドルの謎とは結びつかない。
後日、シドはレコード会社(ヴァージン)が多額の保釈金を支払ったことにより保釈された。シドはリハビリ生活を送るものの、精神的にも非常に不安定な状態にあった。
そして翌1979年2月2日。ベッドの上に倒れていたシドを母親が発見。ベッド脇のテーブルにはドラッグを使用していた形跡が残されていた。さらに革ジャンのポケットの中から直筆の遺書らしいメモも発見された。
「俺達の間には“死の取り決め”があった。一緒に死ぬ約束をしてたんだ。こっちも約束を守らなきゃいけない。今から行けば、まだ彼女に追いつけるかも知れない。お願いだ。死んだらあいつの隣に埋めてくれ。レザージャケットとバイクブーツを死装束にして。さようなら」
母親は息子の遺言に従って、ナンシーの遺族にそのことを申し入れたが、強く反対された。後日、人知れず息子の墓を掘り起こした母親は、その遺灰をナンシーの墓に撒いたという。
以降、ファンの間ではナンシーの墓を「シド&ナンシーの墓」としている。その墓標は、アメリカのペンシルベニア州にあるキング・ダビデ・セメトリーの外れにひっそりとたたずんでいる。
文/TAP the POP
引用元・参考文献
・映画『シド・アンド・ナンシー』
・『シド・ヴィシャスの全て VICIOUS―TOO FAST TO LIVE』(ロッキング・オン)/アラン・パーカー (著), 竹林 正子 (翻訳)