生成を目的にしていたかどうか

生成AIを問題視する側の意見は、そもそもこのような著作権法(外国ではアメリカのフェアユース規定など)が現状に対応しておらず、生成AIの学習自体を規制する法改正を求めるというものです。

ただ、すでに述べたように、このような学習自体を禁ずる方向の規制は(少なくとも法律レベルでは)考えにくいでしょう。このような学習を規制することによって、巻き込まれる範囲があまりにも広すぎます。

仮に「著作物を学習データとするAI」について、「学習に使用するデータの著作権者の許可を取っていない」ものを規制する法律ができたとしましょう。当然、今存在する画像生成AIなどはほぼすべて規制されることになります。ここまでは規制を求める側の希望通りでしょう。

しかし同時に、われわれが日常的に使用するインターネット上のサービスの相当数も規制されます。Googleなどの検索サービスから、スマートフォンに初期搭載されているようなアプリまで、検索、写真の加工機能などの背後にはこのような学習を行ったAIが数多く存在します。

「生成を目的にしていたかどうか」がキモとなる? 日本のAI規制が困難な現状と今後危惧される「人間の声」のディープフェイク_3

「これまでのサービスの背後にあるAIは、生成を目的にしていなかった。今の生成AIとは違う」という意見もありえます。では、先ほどの規制の対象を「著作物を学習データとするAI」から、「著作物を学習データとするAIのなかでも、生成的な動作を行うもの」に変えるとどうなるか。

これでも状況はほとんど変わりません。この場合でも、生成AIの学習に反対している人でも日常的に使っているであろう翻訳サービス、動画サービスの文字起こし、デジタルペイントツールの自動彩色機能など、多くの機能やサービスが巻き添えとなって規制されてしまいます。未来に目を向ければ、人類に恩恵をもたらすであろう革新的な情報科学技術の発展を阻害することになります。

このように、そもそも生成AIが行っているような学習は、本来はそこまで特別なものではなく、人びとがそれと意識せずに利用していた多くのITサービスの背後で動いているAIにも適用されているのです。

一方で、すでに現在の生成AIでも、その使い方に問題がある事例が多く観測されているのも事実です。

使用段階において、明らかに現行法を適用できるものや適用を検討できそうなもの(たとえば特定の著作物をAIで改変して公衆送信すること、特定のクリエイターの作品を集中学習させたモデルを使用することなど)については、そのまま対処・ガイドラインを公表しつつ、それでも取り締まれない問題となる使用については、立法も視野に入れるべきでしょう。