母親のことを「誰よりもかわいらしい人でした」とブログで…
母の死を知らされてマスコミの矢面に立った時、彼女は母を想う気持ちを自分のブログにこう記している。
「誤解されることの多い彼女でしたが…とても怖がりのくせに鼻っ柱が強く、正義感にあふれ,笑うことが大好きで、頭の回転が早くて、子供のように衝動的で危うく、おっちょこちょいで放っておけない、誰よりもかわいらしい人でした。」
「一個人としての本当の自分と向き合う期間」に再び結婚し、出産を体験して母となった宇多田ヒカル。2016年には母をテーマにした歌『花束を君に』をリリース。NHKの連続テレビ小説『とと姉ちゃん』の主題歌として世に出る。
その歌を聴いたリスナーから、「もしかしてお母さんのこと?」というリアクションがあったことに、宇多田ヒカルは大いに励まされた。
そして“幻“や“気配“を意味する「Fantome(ファントーム)」というフランス語を、アルバムのタイトルにしたことについても、彼女はインタビューでこう答えている。
今回のアルバムは亡くなった母に捧げたいと思っていたので、輪廻(りんね)という視点から“気配“という言葉に向かいました。一時期は、何を目にしても母が見えてしまい、息子の笑顔を見ても悲しくなる時がありました。
でもこのアルバムを作る過程で、ぐちゃぐちゃだった気持ちがだんだんと整理されていって。「母の存在を気配として感じるのであれば、それでいいんだ。私という存在は母から始まったんだから」と。
※引用元・USENの音楽情報サイト「encore」掲載、宇多田ヒカル特集Vol.2―― インタビュー前編
リスナーが母のことだと分かって聴くからこそ、「絶対に母の顔に泥を塗らないアルバムにしなければという責任を強く感じていた」ともいう。
こうして宇多田ヒカルは、母の藤圭子から声とブルーズの精神を受け継ぎ、それを見事に日本のポップスに昇華させ、名作『Fantome』を完成させたのだ。
文/佐藤剛 編集/TAP the POP