生息数の急増…身を守るための術を身につけてほしい
今年に入って日本のあちこちでクマが大量に出没したのには、山の中にある餌の減少が理由として考察されているが、自然豊かな宇都井の土地ではそういったことは考えにくいという。
「山の中に柿はいっぱい実っているけど、取り尽くされている様子はないから、食べ物に困っているということはなさそう。それよりも純粋にクマの数が増えすぎているだけだろうな。今は猟師の数もめっきり減っていて、増え続けるクマに対処しきれない。すでに人間の手には負えなくなっている」
数が増えた結果、生息域を伸ばしたクマたちは、はるばる人里に下ってきたということなのだろうか。高橋さんは「人間のほうが押し込まれている」と現状を嘆く。
「8月には歩いているときに道の真ん中に小さいクマが現れました。本当に小さくて、こちらを見るなりすぐに踵を返したけど、こうやって1年で2度も間近でクマを見るなんて経験はなかった。つくづく昔とは状況がまったく違っているんだと気付かされます」
クマ被害者のなかにはクマへの恐怖心を抱えたまま過ごす人も少なくない。けれど、高橋さんの態度はいたって気丈であった。
「クマは怖いけど、自分の身は自分で守らなくちゃいけない。これからは不用意に藪や茂みに入らない、夜は外出を控える、出歩くときは数人で、っていうことを覚えておかないと危険な目に遭う。
クマは50メートルぐらい離れていようが平気で走ってくるんで、簡単に命を取られると知りました。身の安全を守るためにも、不用心は避けるべき」
これまで身近な存在ではなかったクマの危険にさらされ、自分や家族の身を案じる必要がある地域は着実に増えている。実際にクマの被害を受けるとはどういうことなのか、被害に遭わないためにはどうすべきか。
全国各地の山間で暮らす人々や登山やキャンプを趣味とする人たちのクマへの悲鳴が止まなかった2023年。誰しもが年の瀬に今一度考えてみる必要があるはずだ。
取材・文/文月/A4studio