「無駄に高学歴」という烙印

僕は学生時代、特別目立つタイプではなかったですが、いじめられるような経験はありませんでした。ところが30代になった途端、どこに行っても排除される存在になっていました。

僕は学習塾でのアルバイトを始めました。大学受験の科目を担当することになったのですが、授業の初日から、

「聞こえません!もっとはっきり喋ってくれませんか!」

40代無職(作家志望)・借金1000万円、超高学歴男性の未来は。「へー、こんな大学出ても結局ここに来ちゃうんだ」「まだ、わかんないですよ。僕、ここで人生終えるつもりないんで」_3

と生徒から厳しい声が飛んで来ました。僕は一気に緊張してしまい、一瞬、自分が何を言っているのかわからなくなってしまいました。

「すみません……。準備が不十分だったようで、次回からは気を付けます」

と最後に謝罪し、急いで教室を出ました。

次の授業では苦情が出ないよう抜かりなく準備をし、マイクを借りて授業に臨みました。ところがまた、

「すみません。内容がわかりづらいんですけど……」

「前回のところと被(かぶ)っていて、先に進めた方が……」

などと、いきなり文句を言われ、さすがに頭にきたので、

「今、説明しているんだからまずは黙って聞いてもらえるかな?質問は後で受けますから」

と言い返すと、数名の生徒が教室から出ていってしまいました。

事務局にも既にクレームが入っていたようで、僕は高校3年生の担当をすぐ降りることになりました。

「あのクラスには浪人生もいますし、受験でピリピリしてますから」と職員さんからフォローしてはもらえたのですが、他のクラスも既に担当は決まっており、僕はしばらく事務を手伝い、次の学期から中学1年生の担当になりました。

僕の代わりに授業を引き受けることになったのは現役の大学生で、学歴は僕より下でしたが評判が良く、講師室にたくさんの生徒が質問に来ていました。確かに、受験テクニックなんて入試を終えたばかりの学生の方が備わっているに決まっています。

僕は教育系のバイトなら時給も高いし、自分の経歴ならば容易だと高を括(くく)っていましたが、甘かったと認識を改めました。少子化によって学習塾も経営が厳しくなり、昔のように高学歴難民の受け皿にはなりえなくなっていると感じました。

生徒だけでなく、保護者からの意見もかなり重要視されていました。各講師の授業評価アンケートは、事務局で確認をし、改善の役に立つ内容以外は講師にフィードバックすることはないということでしたが、事務作業をしていた僕は、自分に書かれたアンケートを見てしまったのです……。

「テキスト棒読みなら家で自分で勉強します。もっと若い先生に替えてほしい」

「年齢の割に、講師経験がないのがバレバレ。しっかり研修を受けてきてほしい」

読めば読むほど、針で刺されるような、厳しい内容ばかりでした。そしてとどめの一言は、

「無駄に高学歴な講師より、若くて実践力のある講師をお願いします」

正直、へこみました……。

これだけ人格否定されている講師など、僕以外にはいません。ここの講師は、現役大学生の割合が高く、年配の講師はほとんど見たことがありませんでした。

僕は教師になりたいわけでもないし、授業の準備やストレスを考えると塾講師は割に合わない仕事だと思いました。

ようやく、中学生向けの集中講義を担当させてもらえたのですが、やはり評価はぱっとせず、

「しばらくは担当するコマが埋まっているので、改めて連絡します」

と事務局から言われてしまいました。つまり、クビみたいなもんです。評価が高く実績のある講師は多くの授業を担当できますが、僕にはその後、一度も連絡が来ませんでした。

僕は、受験科目の担当ではなく、推薦入試の小論文や大学院入試科目の指導ならできるはずだと他の予備校の面接も受け、採用されました。

ところが、ここで僕は改めて、人前で話をするのは得意ではなく、授業をするのが下手なのだと痛感しました。小論文の授業を担当しましたが、やはり評価が悪く、それ以来、授業は任されず、論文の添削しか回って来なくなりました。