ワクチンを打つと感染者が増えるの誤解

これも、初歩的な分数の勘違いです。

イスラエルでは大規模ワクチン接種が進んだため、非接種者が少数派になってしまいました。圧倒的多数派のワクチン接種者も少しは入院します。少数派の非接種者もより多くの割合で入院します。

「ワクチン接種によるリスクの誤解」ワクチン接種後に一定数の死亡者が出現するのは、確率的には当然のこと。我々に必要なのは「正しい医療」_3
すべての画像を見る

しかし、分母が巨大な接種者では、「率」が低くても、分子は大きくなってしまいます。分母が小さな非接種者では「率」が大きくても分子は小さいままです。

この場合、接種者全体分の入院接種者、非接種者全体分の入院非接種者、という「分数」で考えれば誤解は消失します(*5)。ワクチンを打つと感染者が増える、という意見も見ました。

これも素朴な誤解で、感染が増えるとワクチン接種者が増えるという「逆の因果関係」を見ているだけです。

ワクチンが感染を抑えているかどうかは「比較群」を置かないと分かりません。ここでは因果関係が逆転しているので、「傘をさす人が増えると、雨が降る」かのような誤解です(*6)。

以上、新型コロナワクチンについて、特に問題になりやすい点をできるだけ分かりやすくご説明しました。お役に立ちましたでしょうか。


写真/shutterstock

「みんなワクチンを打ってますよ」に弱かった日本人
ワクチンの有効性について議論するときに最低限必要な知識


参考文献
(*1) 「コロナワクチン接種後死亡は47 件増えて1967 件に 厚労省報
告」日刊ゲンダイヘルスケア(2023 年1 月25 日) Available at: https://hc
.nikkan-gendai.com/articles/278645(閲覧日2023 年1 月27 日)
(*2)Iwata K, Kunisada M. Alopecia universalis after injection of messenger RNA COVID-19 vaccine. A case report. IDCases 2023; 33:e01830.
(*3)Patone M, Mei XW, Handunnetthi L, et al. Risk of Myocarditis After Sequential Doses of COVID-19 Vaccine and SARS-CoV-2 Infection by Age and Sex. Circulation 2022; 146:743-754.
(*4) Patone M, Mei XW, Handunnetthi L, et al. Risk of Myocarditis
After Sequential Doses of COVID-19 Vaccine and SARS-CoV-2
Infection by Age and Sex. Circulation 2022; 146:743-754.
(*5)Morris J. Israeli data: How can efficacy vs. severe disease be strong when 60% of hospitalized are vaccinated? 2021. Available at:https://www.covid-datascience.com/post/israeli-data-how-can-efficacyvs-severe-disease-be-strong-when-60-of-hospitalized-are-vaccinated(閲覧日2023年1月27日)
(*6)森田洋之「厚労省が公式データ修正→『ワクチン有効』は嘘でした…の衝撃。」note. Available at: https://note.com/hiroyukimorita/n/nb8
167213232a(閲覧日2023 年1 月27 日)

『ワクチンを学び直す』 (光文社新書) 
岩田健太郎
「ワクチン接種によるリスクの誤解」ワクチン接種後に一定数の死亡者が出現するのは、確率的には当然のこと。我々に必要なのは「正しい医療」_4
2023年10月18日
880円
288ページ
ISBN:978-4334100902
感染症の専門家が、最新の動きを含めてわかりやすく解説

【内 容】

この数年、日本のワクチン接種は、環境において大きな前進が2つあった。1つは、新型コロナに対するmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンの提供が非常にうまくいったこと。

もう1つは、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的勧奨が再開されたことである。ワクチンを論じる上で最も重要な2つのポイントは、有効性と安全性だ。著者はこれまで光文社新書で、ワクチン・予防接種をテーマに2冊の本(『予防接種は「効く」のか?』『ワクチンは怖くない』)を刊行し、この2点について検討してきた。

それをふまえ執筆する3冊目の本書では、ワクチンについて様々に論じられる中での最新の動きに加え、予防接種制度や海外のワクチンも含めたワクチン接種の全体像、またそれぞれのワクチンがどう活用されるのかを、包括的に、かつ分かりやすく解説する。

ワクチンのこれまで、今、そして未来――
amazon