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幻となったインパール演説

いまわたしの手元には、いつか安倍総理にインドで読んでいただくつもりだった、一本の草稿がある。

2019年の暮れ、安倍総理は首脳間定期相互訪問のローテーションで訪印するはずだった。ほかならぬインパールへ行き、往時を偲ぶ短い発言をなさる予定だった。これが流れてしまったことを、安倍総理はかえすがえす、残念に思っていたに違いない。

同年の6月、インパール作戦の激戦地マニプールに、日本財団の支援によって「インパール平和資料館」が竣工していた。12月には、そこにモディ首相とともに行く約束となっていたのだ。

実現せずじまいとなったのは、同年の10月以降、マニプールを含むインド東北地方に「市民権法」改正に反対する大規模な抗議行動が起き、一時的に治安が悪化したためだ。

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新型コロナウイルスの第一号患者は、そのころ中国・武漢で発生していた。中国政府は初動を誤り、恐るべき疫病が世界に広がるのを放置したから、訪印は無期延期になった。

そして2020年の9月16日には、寛解していたはずの潰瘍性大腸炎を再び悪化させてしまった安倍総理が、政権を去った。

「また今度がある」と思っていたインパールの訪問はついに実現せず、そしていま、永遠に、できないこととは、あいなってしまった。