かつては反権威的な思想を持つ若者の象徴であったバイクだが……
出典が怪しく、実はそんなことは言っていないという説も濃厚だが、かのウィンストン・チャーチルが残したとされる“名言”に、「20歳のときリベラルでないのなら情熱が足りない。40歳のとき保守主義でないのなら、思慮が足りない」というものがある。
チャーチルの時代の40歳とは、現代の50〜60代くらいの感覚だろうか。
確かに、人の価値観や生き様、さらには趣味・嗜好・選択が、年齢とともに変わるのは自然な流れだ。
いささかステレオタイプ的な物言いになるが、若さは冒険を求め、自由を探究し、新奇性と反・既成を好む。
だが人は時間が経つにつれて安定を求め、伝統や秩序を尊重するようになる。
つまり多くの人々にとって“リベラル=自由主義”はライフステージ上の通過点であり、“コンサバ=保守主義”こそが到達点であると言ってもいいだろう。
かつて若者たちは自由と冒険を追い求め、バイクに魅了された。
体に爽快な風を受けながら、身軽に道を駆けめぐることのできる、まさに“自由”の象徴がバイクだった。
バイクは若者特有の反権威的な思想とも結びつき、1950〜1960年代のアメリカのバイカーズやイギリスのロッカーズといったユースカルチャーを生み出した。
日本でも1960年代のカミナリ族や街道レーサー、そして1970〜1980年代に全盛期を迎える暴走族まで、自由と反逆を標榜するアイデンティティの一部となっていた。
しかしご存じのように、今やバイクは若者のための乗り物ではない。
一般社団法人日本自動車工業会の調査によると、2021年度時点で新規バイク購入者の平均年齢は54.2歳。最大のボリュームゾーンは50代の31%で、60代がそれに次ぐ25%。
若者はというと、10代は2%、20代4%、30代は7%しかいない。
バイクの国内販売台数自体が2022年度で40万8千台と、328万台 を記録していた1982年と比べ激減しているのだが、それでも乗っているのは“あの頃”を忘れられない親父ばかりなり、という状況になっているのだ。
つまりバイクはもはやリベラルな若者の心を捉えてはおらず、ユーザーの加齢とともにそっくりそのまま、コンサバ=保守主義の象徴となっているという見方もできるだろう。
では今の若者は……と翻って考えてみると、新しい風が吹いていることに思い当たる。
当世にも、若さを象徴する乗り物があるではないか。
そう、電動キックボードである。