「趣味」の詰将棋で浮かべた笑顔

あまりの強さに、他の棋士たちは舌を巻いた。優勝経験のある船江恒平(ふなえこうへい)は「藤井六段の解く速さは毎年信じられないほど。詰将棋の方が、将棋以上に差を感じます」。名人挑戦権を争うA級順位戦に所属する広瀬章人は「藤井六段の優勝は順当 で、驚きはないですね」と白旗を揚げた。

表彰式でインタビューを受ける藤井は冷静だった。「最近はあまり詰将棋を解いていないので、全く自信がなかった」。第2ラウンドで最後まで退室しなかったのは、ミスがないか、念入りに確認していたためという。

〈祝・八冠達成〉藤井聡太・6歳から圧倒的だった詰将棋の才能と姉弟子の記憶「まだ字をちゃんと書けないのに、詰将棋を解く速さは教室で一、二を争うほどでした」_2

一方で、こんな言葉も口にした。「選手権には毎年楽しみで参加している。今年も素晴らしい作品に出合えて、うれしく思う」

一般的には、トレーニングと捉えられることが多い詰将棋だが、実戦では現れないような華麗な捨て駒や意外な合駒が飛び出す問題も数多く作られている。それ自体を解いたり鑑賞したりすることを楽しむファンも多く、作り手は「詰将棋作家」と呼ばれる。江戸時代には、時の名人が詰将棋の作品集を作り、将軍に献上する習わしもあった。

詰将棋にはプロとアマの垣根がない。プロアマ問わず、選手権には全員「趣味」で参加しており、藤井もその一人だ。「問題」ではなく「作品」と表現したのも、詰将棋への敬意の表れと言える。

18年に新設された名古屋会場では、藤井や船江ら6人が出場した。解答時間の合間に、解いた感想を年の近い奨励会員らと述べ合う私服姿の藤井は、普段の対局の時よりリラックスした笑顔を浮かべていた。

インタビューで、詰将棋の楽しさを問われた藤井は「あ、そうですね」と言って考えた末に、こう答えた。「将棋は茫洋(ぼうよう)とした局面が多い。詰将棋(の手順)は割り切れていて、解けた時の気持ちよさがある」