猛スピードで詰将棋を解く幼稚園児がいた!
詰将棋に関する藤井のすごさについて、女流棋士・中澤沙耶は忘れられない記憶がある。
中澤が小学校高学年の時だった。ある将棋教室の合宿に参加した際、猛スピードで詰将棋を解く小さい子どもがいた。藤井だった。「まだ字をちゃんと書けないのに、解く速さは一、二を争うほど。驚きました」
藤井は小学1年で、アマチュアの少年少女が腕を磨く「東海研修会」に入会。当初は中学1年の中澤より下のクラスだったが、瞬く間に追い抜いていった。「どんなに不利になっても、逆転勝ちしていた。抜かれたのはショックでした」。小学4年で奨励会に入ってからも、勢いは止まらなかった。
中澤は2015年、研修会で規定の成績を挙げ、女流プロデビューを果たす。その際、藤井と同じ杉本門下になった。年下の兄弟子である藤井が14歳2カ月の史上最年少で棋士になったのは、翌16年10月。その後、藤井は日本中から熱い視線を送られる存在になっていった。
対局が中継されるにつれ、記者の質問に答える際の藤井の落ち着きぶりも知られるようになった。だが中澤は、ある将棋大会でプロになりたての藤井と同席した時のことが印象に残っている。「参加者の前でのあいさつを頼まれ、『何を言えばいいか、わからない』と言って緊張している様子がかわいらしかった。『中学生なんだな』と感じました」
中澤は18年2月、名古屋市の将棋教室の一室で、「レディースセミナー」を始めた。週1回、20〜60代の初心者の女性5、6人に指導する。藤井の活躍に注目が集まるなど、折からのブームの追い風を受けて、「将棋に関心を持つ女性が増えている」と感じたためだ。
「幼稚園児の時から知っている藤井六段が将棋ブームを起こすなんて、思ってもいませんでした」
#3につづく
※肩書き、名称、年齢、および成績などのデータは、原則として取材当時のものです。
文/朝日新聞将棋取材班
写真/photoAC、共同通信社(サムネイル画像)