2ヶ月にわたる挑戦の末、ついに…

次に山へ行ったのは10月の中旬。最初に火起こしを始めてから2ヶ月が経ち、季節は秋になっていた。山に着いて車を降りると、床一面にオレンジ色の落ち葉が敷き詰められ、歩くとサクサクと小気味のいい音を立てた。空気はカラッとしていて、2ヶ月前に作った火きり板も、今までにないくらい乾燥していた。これはいけるかもしれない。

森は妙に静かで、部活の公式戦の前みたいな緊張感に包まれていた。この2ヶ月間、何度も二人で試してきたポジションにつき、ついに原始の火起こしが始まった。

トップバッターは縄。8割くらいの力で棒を回転させ、徐々に摩擦熱を上げていく。白い煙が出始めたところで文に交代。その直後、棒が板から外れて土に突き刺さった。こうなると、棒の先端の温度が一気に下がり、リセットされてしまう。

「あ〜ごめん!」

「大丈夫、落ち着いて!」

一瞬慌てたが、縄の掛け声もあり、落ち着きを取り戻して再び棒を回す文。また煙が上がり、木屑がもりもりと出始めたところで縄に交代。ここからは全力で勝負をかける。

「だああああああつけーーー!!」

シュッ、シュッ、シュッ、シュッ……。

シュッ、シュッ、シュッ、シュッ……。

「いいよ!煙、もくもく出てきた!」

シュッ、シュッ、シュッ、シュッ……。
シュッ、シュ……。

「キツかったら代わる!」

死力を振り絞り、もはや文字化できない声をあげる縄。

「○※▲□×だあああ〜ごめん交代!」

「よし!」

シュッ、シュッ、シュッ、シュッ……。

シュッ、シュッ、シュッ、シュッ……。

原始の火起こしに挑戦して棒を回し続けて2ヶ月、「週末縄文人」が立ち上る“炎”のなかに見たものとは‥‥後編_4

ラストスパートをかける文。煙の量が増え、木屑の色が黒く変わった。

「つくつく!ここだ、頑張れ!まじでもうちょいだ!」

シュッ、シュッ、シュッ、シュッ……。

シュッ、シュッ、シュッ……。

「……ついたんじゃないか?」

手を止める文。火きり板をどかすと、溜まった木屑が仄かに赤く光り、静かに煙が上がっていた。ついに、ついに自然のものだけで火種ができたのだ!この2ヶ月の苦労が一気に頭の中で再生され、熱いものがこみ上げる。でも、喜ぶのはまだ早い。この火種を炎に成長させなければならない。