監督の「飛行機が離陸したら涙をこぼしてください」に、二宮さんが「はい」と
ーー演じた美春みゆきについて、お聞かせください。
謎めいた女性・みゆきを表現することには当初、すごく難しさを感じていました。
彼女に限らずとも人は過去に経てきた経験や、その時その時に感じてきた想い自体は、良くも悪くも、もう元には戻せないわけじゃないですか。
過去は変えられない中で、みゆきにしてもそれは例外ではなく、彼女は映画で描かれたシーンの行間の中でもずっと一生懸命生きています。静かだけれども、毎日毎日頑張って強く生きている女性です。
閉じてしまった心の傷の蓋を開ける鍵をどこになくしてしまったのかも分からない中、ある日、悟という男性が目の前に現れて。
みゆきの想う、とにかく少しずつでも前に進んでみよう、一歩踏み出して光に向かおうという希望と、その真逆の戸惑いとの葛藤を、演じる上ではずっと意識していました。
ーー印象的だったシーンはありますか?
浜辺での、私(みゆき)と二宮さん(悟)のシーンがありました。その水平線の先は飛行場だったんですが、常に飛行機が離着陸するんです。そのシーンの撮影で監督が二宮さんにリクエストされていたのが「あそこに飛行機が見えますよね。あの飛行機が離陸したら涙をこぼしてください」といった演出だったんですが、二宮さんが「はい」とお答えしていて。
「え? 『はい』って、そんなこと出来るんだ…」と思ってたら、見事にそのタイミングで、涙を流して演じられるんです。
私は驚嘆していたんですが、やがて私にも別の場面で、私にすればわりと無茶なそういった演出のオーダーが来てしまい(笑)。
あるシーンで流れる音楽に対して「流れるメロディの“この部分”になったら泣いてください」との演出でした。音楽の尺は決まっていたのですが、二宮さんは何でも出来るし、先ほども申し上げましたが、「はい」と即引き受けられて見事に演じられるので、ここで私が「出来ません」なんて言えないんですよ。天才の横に立つのは辛いです!(笑)
そんな葛藤の中、そのシーンの直前にも二宮さんはいろいろな話をしてくださって。それらも演技の助けになり、結果、本番では自然に涙が溢れ出してきて、なんとか乗り切ることが出来たのでホッとしました。でも私にすれば、一か八かの体験でした(笑)。